波打ち際のシェップのモンロー・ウォーク
Archie Shepp "Life at the Donaueschingen Music Festival"
フリージャズの雄とされるジャズ・ミュージシャンですがこの人ほど評価の定まらない人はいないでしょう。ハッタリと環境(時代)に恵まれたミュージシャンで最初のハッタリでは、マイルスに「俺を雇え」と言って、マイルスから「お前、何様?」と返されたとか(記憶している意訳です)。セシル・テイラーの元でデビューしたり晩年のコルトレーンに寄り添ったり、フリー・ジャズを体現していると思えば、黒人解放運動の方へ寄り添ったり、ジャズじゃなくブラックミュージックだと言っり、出すアルバムも節操なく時代に寄り添うような多作なアルバム、ようするに乗せられ易く、それがセールスポイントでもありマイナス的な部分もあるミュージシャンなのだと思います。
このアルバムは、それでも恩師コルトレーンが亡くなってすぐに、長年コルトレーン・カルテットのベーシストであるジミー・ギャリソンを迎えてのフリージャズのライブ盤です。ドイツというのがフリージャズに熱狂的なれる観客を得てシェップのアルバムの中でもかなり熱いライブになっています。そういえば80年代に旧ピットインで観たシェップさんもかなり熱いライブで、ファンキーな歌を披露したり、サービス精神も旺盛なんだと思いました。
最初にそのジミー・ギャリソンの延々と続くベース・ソロは、コルトレーンの晩年のライブを踏襲しています。ベースを掻き鳴らすようなフラメンコ奏法が見事にジミー・ギャリソンの集大成と言ってもいい演奏です。まさにコルトレーンに捧げるには相応しいオープニングです。
そしてクインテットの編成が面白く、シェップのテナー、トロンボーンが二人、ベースとドラムのピアノレスです。シェップの骨太いテナーをさらに際立たせるツイン・トロンボーンは名手のふたり、グラチャン・モンカーとラズウェル・ラッド。ラズウェル・ラッドは何度もシェップとの共演者ですから、そこにもう一人トロンボーンが加わった形ですね。
トロンボーンが波のようにうねりを上げるフリー・ジャズの中で突然、波打ち際に現れるのがボサノバの名曲「いそしぎ」のメロディ。シェップは若い時ラテン・ジャズから出発したのでこういうのは得意だったのですね。それが後年「ヴィーナス・レコード」などのムードテナー的な演奏になっていくのです。
(ジャズ再入門vol.49)