『ヴェルクマイスター・ハーモニー』メタファーとしての鯨
『ヴェルクマイスター・ハーモニー』(2000年/ハンガリー=ドイツ=フランス/モノクロ/146 分/)監督・脚本:タル・ベーラ 出演:ラルス・ルドルフ、ペーター・フィッツ、ハンナ・シグラ、デルジ・ヤーノシュ
タル・ベーラは三本目だが、この映画が日本初公開だったのか?最初に『ニーチェの馬』の衝撃も、『サタンタンゴ』の芸術性も体験済みだったので、この映画はタル・ベーラの映画としては面白いが通常の映画と同じように見ると退屈してしまうかもしれない。
まずタイトルがよく分からなかったが音楽理論ということだった。
たぶんそれは映画理論とメタ構造となっているのだろうが、その音楽理論よりも最初にタイトルで思い浮かべたのがゲーテ『ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代』であり、そうした物語が通用しない世界での突然の悲劇というべきものなのかもしれない
それはいま起きている世界情勢であるウクライナ侵攻やガザ侵攻に繋がることで突然見舞われる悲劇的世界なのかもしれない。タル・ベーラ自身がハンガリー出身でもあり、ハンガリー動乱をイメージしていたと思う。理性によるハーモニーの世界ではなく、終末論的な黙示録的な世界、そのメタファーが鯨という神話(聖書)なんだろう。
その悲劇の中に希望がまったくないのかと言うと広場に残された鯨のオブジェがメタファーとして何かを語っている。エステルが見たものとしての監督の視線とヤノーシュという若者が体験した恐怖の先にあったのが鯨なのだ。
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