「寛容と人類愛」を説いた『賢者ナータン』
『賢者ナータン 』ゴットホルト・エフライム レッシング , 丘沢 静也 (翻訳)(光文社古典新訳文庫)
イスラムの最高権力者サラディンの難題に、ユダヤ人の金持ちナータンは、どう答える?
作品
寛容とヒューマニズムの賛歌。18世紀、ドイツ啓蒙思想の代名詞 『賢者ナータン』。カントとならんで、啓蒙の世紀をリードした思想家レッシングがナータンに語らせた〈3つの指輪の寓話〉は、多様性がキーワードになった今日の私たちに、深い問いを突きつける。
物語
十字軍の停戦協定が成立したエルサレム。キリスト教徒のテンプル騎士に養女を助けられたユダヤの商人ナータンが、イスラムの最高権力者から「3つの宗教のうち本物はどれか」と問われる。「寛容と人類愛」を説いた思想劇。付録に〈指輪の寓話〉(『デカメロン』)、〈寓話〉(レッシング)。
中世のエルサレムでユダヤ教、キリスト教、イスラム教が交わる寓話。戯曲で啓蒙を問いたレッシングの代表作。レッシングは名前も知らなかったが、「100分 de 名著 フランツ・ファノン『黒い皮膚・白い仮面』」で出てきて興味を持った。カントに影響を及ぼした啓蒙思想家。ユダヤ人の娘を火中から救い出したテンプル騎士の男。最初から名前が明らかにされないで役名で呼ばれているのは注意が必要。
テンプル騎士(キリスト教十字軍)の役割で彼の地(エルサレム)にやってきたが、イスラム側に捕まり捕虜の身だった。それをイスラムのスルタン(最高権力者)に解放されたのだった。テンプル騎士の青年の変遷(名前の獲得)もドラマの重要なポイントとなっている。「捻れ」のドラマでテンプル騎士の男も捻れがあるのがドラマのポイントになっている。最初、このテンプル騎士の男が敵役(悪役)だと思わせるがそうでもなかった。ただテンプル騎士という役割が男の使命感を物語っている。ナータンはユダヤ人商人でイスラム教の友人がいる。
さらに養女(実はイスラムの娘)がいて、侍女はキリスト教徒の女だったというナータンの家の中でも3つの宗教が交錯しているのだ。さらにイスラムのスルタンの亡き弟はキリスト教徒に改宗していた。そのあたりの人物相関図の複雑さ。人物相関図をすべて理解する必要はないが、このドラマのエルサレムという場所が3つの宗教が交差する場所なのである。そこで起きる悲喜劇。テンプル騎士の男が火中にあるユダヤ人の娘を救って(騎士道精神)、恋に陥るも、複雑な成り行きから結婚は出来ない。しかし、驚くべき結末が待っている。
人物相関図のサイトを見つけた。わかり易く説明している。『賢者ナータン Nathan der Weise』 人物相関図公開!
https://seiryu-theater.jp/archives/2994
その他にナータン(ユダヤ人商人)の侍女(キリスト教)と友人(イスラム教)で交錯しているのだ。そしてイスラムのスルタン(最高権力者)から三つの宗教でどれが偉大かを問われる。その解答として「3つの指輪の寓話」が出てくる。元はボカッチオ『デカメロン』の話。指輪がそれぞれの宗教に喩えられ、一神教の相続の話になっている。指輪より大切なのは宗教心であると解く。