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シン・短歌レッスン152


『七十年の孤独 戦後短歌からの問い』川野里子

NHK短歌の講師で一番わかりやすいと思って手に取りました。今の短歌界が無風状態(俳句界でも言われていることで社会全体がそうなのかもしれない。外の世界は激動なのに)であること。批評がないことなどが問題として上げられていて、いい本だと思いましたがもう絶版されている。十年も経っていないのに。

そこで現代短歌になったのは、釈迢空と斎藤茂吉が亡くなって戦後に葛原妙子や塚本邦雄が出てきたということだと述べている。釈迢空は近代短歌の「批評」で斎藤茂吉は「文脈」ということを言っている。葛原妙子が「文脈」で塚本邦雄が「批評」ということなのかな。葛原妙子はそれまで抑えられてきた女性性の発露として、女性短歌が全盛になっていく。その理論的中心が塚本邦雄なのか。川野里子は塚本邦雄の葛原妙子論には批判してましたけど。

川野里子の葛原妙子は短歌本の中でも良書だと思います。

俳句の分かれ目(現代俳句になるのか?)も秋櫻子がホトトギスを脱退したときだと先日の講評会で言ってたと思ったが、要は批評性があったということだと思う。それまでの写生という文脈から写生だけではない心の内も詠んでいいのだと秋櫻子が言い始めて「新興俳句」が出てくる。そういうことかな。ただ全体の流れは権威に従うようになっているから改革者は孤独になっていくのだと思う。

そういう「問い」を歌人や俳人は持っているのかということだと思うが。ある程度スタイルとして、この社会に迎合して生きていかねばならないというのがあると思う。その壁を乗り越えて違う道を示すのが改革者であると思うのだが。「文脈」(伝統)と「批評」(改革)を考えることは今必要なのだと思う。

川野里子は葛原妙子が釈迢空「女流短歌」論を受けて、女歌が「アララギ」から閉塞され明星派(与謝野晶子や山川登美子)のような歌人を出さなかった。しかし釈迢空(折口信夫)が考えていた女歌は与謝野晶子よりも山川登美子の白百合のポーズ(媚態)としての短歌だった。そこに葛原妙子は戦時の日本で押さえつけられていた母性(男の理想像)としての女性よりも女性性そのものを読む(そこにキリスト教的自意識の芽生えがあったのかもしれない)。そうした批評性と短歌史の学び。


百人一首(まとめ)

とりあえず百首は昨日までアップしたのだが重なる歌人がいるのでそれをピックアップ。

1 花の色は移りにけりないたづらに我が身世にふるながめせし間に 小野小町
2 世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし 在原業平
3 さくら花ちりぬる風のなごりには水なき空に波ぞたちける 紀貫之
4 わが園に梅の花散るひさかたの天より雪の流れくるかも 大伴旅人
5 世の中を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば 山上憶良
6 あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む 柿本人麻呂
7 田子の浦にうちいでてみれば白妙の富士の高嶺に雪は降りつつ 山部赤人
8 うつそみの人にある我や明日よりは二上山を弟(いろせ)と我が見む 大伯皇女
9 我が心焼くも我なりはしきやし君に恋ふるも我が心から 詠み人知らず
10 これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬも逢坂(あふさか)の関 蝉丸
11 天津風(あまつかぜ雲の通ひ路(かよひじ)吹き閉ぢよをとめの姿しばしとどめむ 僧正遍照
12 なげきわび空に乱るるわが魂を 結びとどめよしたがひのつま 六条御息所
13 空を かよふまぼろし 夢にだに 見え来ぬ魂(たま)の 行方たづねよ 光源氏
14 かこつべきゆゑを知らねばおぼつかないかなる草のゆかりなるらむ 紫の上
15 荻の葉に露ふきむすぶ秋風も夕べぞわきて身にはしみける 薫
16 袖ぬるる露のゆかりと思ふにもなほうとまれぬやまとなでしこ 藤壺
17 末遠き  二葉の松に  引き別れ いつか木高き  かげを見るべき 明石の上
18 数ならぬ三陵や何の筋なれば うきにしもかくねを留めけむ 玉鬘
19 鐘の音の 絶ゆる響きに 音を添へて わが世尽きぬと 君に伝へよ 浮舟
20 草若み常陸の浦のいかが崎いかであひ見む田子の浦波 近江の君
21 東海の小島の磯の白砂に われ泣きぬれて 蟹とたはむる 石川啄木
22 天涯花ひとつ胸へと流れ来るあなたが言葉につまる真昼を 大森静佳
23 立て膝をゆっくり割ってくちづけるあなたをいつか産んだ気がする 林あまり
24 しかたなく洗面器に水を張りている今日もむごたらしき晴天なれば 花山多佳子
25 陽のあたる壁にもたれて座りおり平行線のと君の足 俵万智
26 アフリカに吸ひつきてゐし蛸の足噛みをりつひにアフリカを知らず 川野里子
27 夏はつる扇と秋の白露といづれかまづはおかむとすらむ 壬生忠岑
28 疾風はうたごゑを攫ふきれぎれに さんた、ま、りぁ、りぁ、りぁ 葛原妙子
29 見わたせば花も紅葉もなかりけり 浦のとまやの秋の夕ぐれ 定家
30 てのひらに落ちてくる星の感触にかなり似てない投げ上げサーブだ しんくわ
31 瓶にさす藤の花ぶさみじかければたたみの上にとどかざりけり 正岡子規
32 ああ皐月 仏蘭西の野は火の色 君も雛罌粟(コクリコ) われも雛罌粟 与謝野晶子
33 葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり 釈迢空
34 一日が過ぎれば一日減つてゆくきみとの時間 もうすぐ夏至だ 永田和宏
35 ラルースのことばを愛す”わたくしはあらゆる風に載りて種蒔く”  篠弘  
36 百粒の黒蟻をたたく雨を見ぬ暴力がまだうつくしかりし日に 浜田至
37 日本脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギンの飼育係も 塚本邦雄
38 マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや 寺山修司
39 かならずが であるを べきで ねじまげて ねじふせられた である に であう さいとうさいとう
40 子が忘れゆきしピストル夜ふかきテーブルの上に母を狙えり 中条ふみ子
41 ほととぎす五月待たずぞ鳴きにけるはかなく春を過ぐし来ぬれば 大江千里   
42 はかなくて過ぎにし方をかぞふれば花にもの思ふ春ぞ経にける  式子内親王
43 ほととぎす五月みなづき分きかねてやすらふ声ぞ空にきこゆる 源国信
44 ぼんやりと耐へてゐるんだゆく夏の傘に集まる雨の重さに  山本富士郎
45 みづあふれ子どもは生まれみづは閉ぢこの子のどこかへかへりたそうで 米川千嘉子 
46 いとどまた誘はぬ水に根をとめて氷にとづる池のうきくさ  後鳥羽院下野
47 打楽器はごんぼごんごと闇を打ちアフリカの月膨張しはじむ  永井洋子
48 暮れゆく春のみなとは知らねども霞に落つる宇治の柴舟  寂蓮法師  
49 聞くやいかにうはの空なる風だにもまつに音する習ありとは  宮内卿
50 夕月夜潮満ち来らし難波江のあしの若葉をこゆる白波  藤原秀能 
51 草ふかき富士の裾野をゆく汽車のその食堂の朝の葡萄酒 若山牧水
52 天井を打ちつつ狂う蛾の翅音くらがりに寝てがんじがらめなり   森岡貞香
53 赤き玉とろりとできてこぼさなかつた泪のやうな線香花火 梅内未華子
54 水中では懺悔も口笛もあぶく やまめのようにきみはふりむく  工藤玲音
55 地下道を上り来りて雨ふる薄明の街に時の感じなし 土屋文明
56 そこにいるときすこしさみしそうなとき
 めをつむる。あまい。そこにいたとき。 今橋愛
57 どうしても思ひ出せない名の人と猫又坂の闇夜を下る 大西久美子
58 きのこたちの月見の宴に招かれぬほのかに毒を持つものとして 石川美南
59 白き鯉のすぎゆく膚にかたはらの鯉の緋色のたまゆら映えつ 田谷鋭
60  キッチンへ近づかないで うつくしいものの怖さはもう教えたよ 山木礼子
61 「 もし神がお望みならば ・・・・・・・・また明日。」校長サルマ女子の白き歯 齋藤芳生
62 閉じたままのピアノもすこしずつ狂う 口紅の輪郭整える 川口慈子
63 手をのべてあなたとあなたに触れたとき息が足りないこの世の息が 河野裕子
64 サンダルの青踏みしめて立つわたし銀河を産んだように涼しい 大滝和子
65 死にし子のなきがら負ひて来しよきに酸漿 ほおずき のごときに入日を見たり 鈴木幸輔
66 夜をこめて鳥のそら音ははるかとも世に逢坂の関はゆるさじ  清少納言67 とぼとぼと歩いてゆけば石垣の穴のすみれが歓喜をあげる 山崎方代
68 次々に奔り過ぎ行く自動車の運転する人みな前を向く 奥村晃作
69 川べりに曼珠沙華揺れあれは母 感情ぜんぶが火だったころの 「毎日新聞」2023年7.3日
70 雪により細くなりにし路地ゆけばむこうを来る人ふと雪に消ゆ 樋口智子
71 みどりごは泣きつつ目ざむひえびえと北半球にあさがほひらき 高野公彦
72 忘れ物しても取りには戻らない言い残した言葉も言いに行かない 松村正直
73 陽の中へ疾駆せよ五月 少年を待ち受くるものあまた光れる 高木佳子
74 内側の輪の子を蹴った思い出のマイムマイムはイスラエルの曲 松木秀
75 あをき血を透かせる雨後の葉のごとく あたらしく見る半袖のきみ 横山未来子
76 白きうさぎ雪の山より出でて殺されたれば眼を開き居り 斎藤史
77 髪長き 処女おとめ と生れ白百合に額 ぬか  を伏せつつものをこそ思へ 山川美登里
78 愛 かな しとて憎しともいまは分かち得ず独りミシン踏む部屋黄昏 たそが れて 三国玲子
79 生きて負ふかなしみぞここ鳥髪に雪降るさらば明日も降りなむ 山中智恵子
80 手にうけてわれの心となす 女面おもて 死よりも蒼く頬 削 がれいる 馬場あき子
81 まがなしくいのち二つとなりし身を泉のごとき夜の湯に浸す 河野裕子
82 催涙ガス避けんと秘かに持ち来たるレモンが胸で不意に匂えり 道浦母都子
83 胸びれのはつか重たき秋の日や橋の上にて逢はな おとうと 水原紫苑
84 卵産む海亀の背に飛び乗って手榴弾のピンを抜けば朝焼け   穂村弘
85 したあとの朝日はだるい 自転車に撤去予告の赤紙は揺れ  岡崎裕美子
86 えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい 笹井宏之
87 わたくしが復讐と呼ぶきらめきが通り雨くぐり抜けて 翡翠かわせみ  服部真里子
88 目がさめるだけでうれしい 人間がつくったものでは空港がすき 雪舟えま
89 雪を食べたことありますか、にあるよ って返ってくる人がいた頃 初谷むい
90 シルレア紀の地層は杳(とほ)きそのかみを海の蠍の我も棲みけむ  明石海人
91 意思表示せまり声なきこえを背にただ掌にマッチ擦るのみ 岸上大作
92 ぼくたちこわれてしまったぼくたちはこわれてしまったぼくたちはこわ 中澤系
93 好きな色は青と緑と言うぼくを裏切るように真夏の生理  松野志保
94 遠くまで聞こえる迷子アナウンス ひとの名前が痛いゆうぐれ 兵庫ユカ
95 詩は遊び?いやいや違ふ、かといつて夕焼けは美しいだあけぢや駄目だ 藪内亮輔
96 もう二度とこんなに多くのダンボールを切ることはない最後の文化祭 小島なお
97 性欲が目薬のように落ちてきてかみなりのそらいっぱいの自殺がみえる  瀬戸夏子
98 三越のライオンみつけられなくて悲しいだった 悲しいだった 平岡直子
99 春の船、それからひかり溜め込んでゆっくり出航する夏の船 堂園昌彦
100 パチンコ屋の上にある月 とおくとおく とおくとおくとおくとおく海鳴り 永井祐

22 道浦母都子アウト大森静佳イン
今一番旬の歌人かもしれない。
28 葛原妙子短歌入れ替え
葛原妙子は三首も入れていたが一番いいと思うものが有りすぎて困る。これは口語調の「さんた、ま、りぁ、りぁ、りぁ」のインパクトの強烈さ
30 斎藤史アウトしんくわイン
しんくわは卓球短歌で劇画調。
31 岸上大作アウト正岡子規イン
正岡子規の絶唱短歌を忘れていた。
34 明石海人アウト永田和宏
永田和宏は河野裕子の夫でオシドリ歌人なので余り好きではないのだが、この歌は妻の河野裕子に乳癌が見つかったときの歌で、「夏至」が上手く使われている。
39 正岡子規アウトさいとうさいとうイン
知らずに正岡子規の同じ歌を入れていた。さいとうさいとうはこの歌はひらがな表記なので名前もひらがなにしたのかな、前は斉藤斎藤と表記していた。一見ふざけた短歌のようでかなり意識的に言葉にこだわった短歌が多い。
56 浜田到アウト今橋愛イン
今橋愛は掟破りの多行短歌にひらがながきの句読点に1字空け。これらは短歌というより短詩としてのテクニックか?
58 夕霧アウト石川美南イン
夕霧は『源氏物語』の登場人物。和歌で百人一首をしようと思ったら全然浮かんでこなかったので『源氏物語』の登場人物まで一人として数えたのだ。紫式部の分身として。石川美南は短歌にマジック・リアリズムを導入しようとしたそうだ。この短歌はマジックマッシュルームみたいだけど。
61 水原紫苑アウト齋藤芳生イン
齋藤芳生はアラブ首長国連邦在住というこで海外短歌。
72 俵万智アウト松村正直イン
啄木調のパンク短歌だという。
73 中条ふみ子アウト高木佳子イン
二代目「幻視の女王」なのか?巫女性か?
74 森岡貞香アウト松木秀イン
若者言葉の中に社会性を感じるのかもしれない。
75 葛原妙子アウト横山未来子イン
自由に文語を操る現代の若手歌人。
79 山中智恵子入れ替え
山中智恵子もまだ未体験だった
83 寺山修司アウト水原紫苑イン
この水原紫苑の歌は「万葉集」の大津皇子と大来皇女の悲劇を歌っているという。
88 塚本邦雄アウト雪舟えまイン
雪舟えまは穂村弘「手紙魔まみ」だという。ガーリー少女という言葉に惹かれる。
92 中条ふみ子アウト中澤系イン
中澤系は若手歌人とベテラン歌人の断絶のような歌人だったのかな?

けっこう重複していた。これで重複はないと思うがあったらこっそり教えて。



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