中国史SFは(有名な)漢詩が出てくる
『長安ラッパー李白―日中競作唐代SFアンソロジー』大恵 和実【編】
中国の作家四人と日本の作家四人の唐時代の短編SFアンソロジーということだった。とりあえず半分読めばいいか。
「長安ラッパー李白」李夏(大久保洋子 訳)
ラッパーとなった李白が長安の都に入って詩を朗読するのだが、その時に貧民の歌が聞こえてきてそれをラップにして歌い長安を混乱させたという短編。李白の詩を読んでなくとも楽しめるが、作品の中に李白の詩も出てきてそれをラップ調にしてあった。李白は酒飲み詩人で、民謡なんかを宮廷で詩にして詠んだのでラッパーという位置づけは方向性としては間違ってはいない。
李白の詩の引用とラップ調の歌が面白い。
「シン・魚玄機」立原透耶
「魚玄機」は「漢詩を読む」でやったことがあった。鷗外も「魚玄機」書いていた。
道教の女詩人なのだが、恋の疑惑から侍女を殺して死刑になったという。「シン・魚玄機」では彼女は死刑になってなく、もうひとりの女暗殺者とレズ関係だったというストーリー。女暗殺者も実際に唐時代にいたらしい。
立原透耶は『三体』を翻訳したそうなのでこれからの活躍が楽しみな作家。
『破竹』梁清散
梁清散は劉慈欣『三体』の次に注目すべき中国のSF作家だという(『三体』よりはラノベに近い感じ)。『破竹』は安禄山の乱の頃の話で唐の朝廷が密使(スパイ)を送り込み、そこで出会うのがパンダの化け物で 祥獣であるとされる。中国の漢字は難しくて苦労する(読みがあやふやだから書き出せない)。安禄山の風体がパンダ体型なのかと思うとパンダを兵として操るというのはあるかもしれない。その秘法が竹の紙(パンダの糞でできている)に書かれて、それを書いたのだが中国でも有名な書家だったということなのだ。
つまり、それは文字にすることで言霊的なものを呼び寄せる力が祥獣を操れるということなのかもしれない。このへんの中国の歴史の奇想天外さとSF的アイデアは相性がいいんだろうなと思う。パンダをパロディとした『カンフー・パンダ』『呪術廻戦』でもパンダが闘う高校生を描いているので、それほど奇抜なアイデアでもないが安禄山と結びつけたのが面白いかな。
「腐草為蛍」円城塔
ちょっと円城塔だけ純文学しているような感じを受ける。随から唐になる時代であり、則天武后の後に皇帝になった李世民にスポットを当てハイブリッドな皇帝ぶりを描いている。この頃は兄弟間の争いで強い者が生き残るという。則天武后が毒親でい生き残った息子をサバイバーと言っているのが今風な感性なのだと思う。