
「三国志」のような中国の神話時代の歴史小説
『小説 伊尹伝 天空の舟 上』宮城谷昌光
中国最古の王朝・夏を滅した湯王の補弼、伊尹の波瀾にとんだ生涯。中国古代という未踏の世界を初めて描きだした記念碑的作品である
内容説明
商の湯王を輔け、夏王朝から商王朝への革命を成功にみちびいた稀代の名宰相伊尹の生涯と、古代中国の歴史の流れを生き生きと描いた長篇小説。桑の木のおかげで水死をまぬがれた〈奇蹟の孤児〉伊尹は、有〓氏の料理人となり、不思議な能力を発揮、夏王桀の挙兵で危殆に瀕した有〓氏を救うため乾坤一擲の奇策を講じる。
中国の神話時代の殷の宰相伊尹の波乱万丈の伝説物語。中国の話だから人名や土地の名前など漢字が難しい。そこをクリアすれば案外アニメ「キングダム」のようで面白い。伊尹は最初夏に滅ぼされそうになる属国の料理人に過ぎなかったのだが、霊的な力で王妃を夏の生贄として王に捧げ、民衆を救う。その夏に商(殷)が責めてくるのだが、敵国になるのだが、そこでも王妃のお抱え料理人となって、助けるのだ。敵対関係が複雑なのだが、伊尹は国よりもそこに住む住民を助けるということなのか?脇役の武将とかの話が『三国志』のような話。
『小説 伊尹伝 天空の舟 下』
夏王桀に妹嬉をささげることで有〓氏の危機を救った伊尹は、桀のライバルとして台頭してきた商の湯王から三顧の礼を受け、湯王の臣となる。伊尹の狙いは夏と商の和親だったが、時代の流れはこれを許さず、ついに夏と商は激突し夏王朝は滅亡する。湯王は商王朝を開くが、伊尹の仕事はまだ終りではなかった。新田次郎文学賞受賞作。
有〓氏は漢字がパソコンでは表記できないようだ。有莘氏(ゆうしんし)。著者は白河漢字学に影響を受けているので、漢字もその影響にあった。
だから、漢字の人名とか国名は難しいのだが、情景描写や会話体主体の物語は読みやすい。人物中心なので感情移入してしまう物語で「三国志」好きならば楽しめる。
中国の神話時代の夏から殷(小説の中では商)へ変わる時代を描いている。伊尹(摯)は夏出身であり(正確には夏の中にある小国)義理立てするかつての仲間たち(武将)と反するのだがそこの転換から後編は始まり、三顧の礼はこの時代の摯を招く商王から始まったとする。物語的には「三国志」のような戦記物だが、神話的部分があるので、そこにファンタンジーを感じるエンタメ小説になっている。