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今年一番の傑作映画かも

『二つの季節しかない村』(2023年/トルコ、仏、独/3h18/DCP)監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン 出演:デニズ・ジェリオウル、メルヴェ・ディズダル、ムサブ・エキチ、エジェ・バージ


トルコ、アナトリア東部の長い冬 『雪の轍』の巨匠ジェイラン最新傑作
雪深い東アナトリアの村の学校に赴任して4年が経つ美術教師サメット。イスタンブールへの赴任を夢見ながらも、現実を受け入れるしかない彼は、ひいきにしていた女子生徒から”不適切な接触”を告発される。雄大な大地を舞台に切ない人間の業を描く巨匠の最新作。

カンヌ映画祭でパルムドールをとった『雪の轍』の監督だった。壮大な三時間を超える作品だが、『雪の轍』よりはわかりやすいのかと。トルコ映画だからなのか民族紛争の最中の国というような(クルド人問題を抱えている)極北な世界の映画なんだけど観て良かった。こういう作品はめったに観られるものではないと思うのだが(トルコ映画だし)。


雪深い村のディスコミュニケーションの話。そこに赴任する教師が出会う事件。教師は自由主義の美術教師で生徒とのコミュニケーションも上手くやっていると思ったのだが、行き過ぎの行為から生徒に訴えられて立場を危うくする。それは教師と言えでも聖人君子ではなく、多少少女に恋心を抱いたのだ。その少女は別の上級生を好きになりラブ・レターを書くのだが美術教師は自分宛てだと勘違いして、生徒にラブ・レターを返さない(持ち物検査で他の教師が見つけた)。それに怒った少女が学校に訴えて教育委員会まで上がってしまうのだが、このへんは会社組織の諮問委員会みたいな感じだった(教師が悪いのだが、組織と人間もテーマとしてある)。

教師はそういう問題もありながら村社会の父子の争いとか父親がいう共同体内のしきたりと自由を求める若者の争いなど村社会の生きにくさも感じている。

そして外地からやってきた彼女が出来るのだが同僚(一緒に住んでいる)教師との三角関係があったりして不快になる(恋人だと思っていたのに同僚と密会しているのだ)。彼女は同僚の方が好きになる(考えてみれば生徒の時と同じパターン)。

しかし、美術教師もしたたかで同僚のいないところで彼女と酒を飲んでセックスをする。彼女は同僚の方が好きなのに。その関係性のドラマは先生と生徒の続きのようなのだが、自分の欲望だけの利己主義の教師と左翼グループの活動家だった彼女の対話が哲学的対話で組織の連帯と個人主義みたいな話になっていく(ここで退屈する人もいるのだろうか?トイレに行く人が多かったような)。

そして男性教師は彼女の義足の理由を知るのだがその喪失感を理解するのだった。つまり彼女は民族紛争で自己犠牲的に共同体と連帯したのだが片足を失うのである。そこに男は同情があったのか彼女の身体的欠損の憤りを認めるのだった。

何より凄いと思ったのはこの演じている女優は本当に片足を切断していたのだった(このシーンは凄い)。そこに女性としての魅力がまだあるのか男とセックスするわけだ。途中これは映画なのだという撮影シーンとか入れながら虚実皮膜の現実を突きつける。

そして再び生徒との対話になる(教師は村を去ることになる)のだ。そこで一つの想い出話として。冬と夏しかないあっという間に夏が過ぎてしまう村を回想するという映画なのだ。トルコ辺境の村の圧倒的な自然とそこに暮らす人々の生活。教師は一人の彷徨える人という感じなのかもしれない。

絶望的に閉じられた村の中で恋した元運動家と生徒の姿を重ねながら冬木の中に彷徨う鳥たちを見るのだった。それは冬木もやがて緑になって短い夏だが鳥たちの恋の季節がやってくるという壮大なドラマの映画だった。感動しないわけがない。


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