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バド・パウエルの魅力!
『Bud Powell in Paris』(1964)
Bud Powell – piano
Gilbert Rovere – bass
Kansas Fields – drums
大江健三郎がパリ時代のパウエルについて、「巨大なセイウチのように身体を揺らし唸り声を上げて」と書いていた。晩年のパウエルは唸り声が目立つわりには指がうごかなったという。それでも、というべきか、だからというべきかパウエルは魅力があるのだ。
テクニックをひけらかすピアニストならばいくらでもいる。チック・コリアにしても上原ひろみにしても次の世代がくれば生き残るのはテクニックだけで生き残るのは大変なのである。
例えば往年の名車といわれるスポーツ・カーがある。スピードは100キロそこそこかもしれない。高速道路ではスイスイ他の車に抜かれる。しかし、考えてしい。日本の高速道路では、120キロ出せばスピード違反で捕まる。それに数値で馬力を誇ってもそれはブランドにしかならずサーキットならばその性能を出せるかもしれないが、せいぜい初速の快感だけなのである。
街乗りを考えてみよう。パリの石畳の歴史ある道路で高性能の馬力車で疾走感を得られるだろうか?50年代に誇った名車のスポーツ・カーは、エンジン音もうるさいがそれでも風を感じる疾走感があるのだ。密室で静かな車なのにやたらと振動がつたわってくるなんて悪酔いしそうである。
オリックスに星野という珠が遅いピッチャーがいたが、彼はスロカーブと直球を組み合わせることで、豪速球ピチャー並の三振を取れた。そしてごっ速球ピッチャーは、スタミナを消耗すると球速も落ちてホームランを打たれてしまうのだ。
ジャズの話だった。パウエルが凄いのはチック・コリアでさえパウエルに敬意を表し曲を捧げているのだ。そして、驚いたことにこのアルバムのプロデューサーがデューク・エリントンだということだ。その期待に答えるべく名盤になっている。全盛期のパウエルもいいけど毎日聴くには疲れる。
やはりパウエルの「ディア・オールド・ストックホルム」は誰よりも名演なのである。雪道をオールド・カーで走る疾走感。運転技術が問われる。