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【読書録】「地元がヤバい・・・と思ったら読む 凡人のための地域再生入門」を読んで考えたこと

「地元ヤバい・・・と思ったら読む 凡人のための地域再生入門」(木下斉 ダイヤモンド社)を読み終え、twitterで書いたら感想が長くなってしまったので、noteにまとめてみた。

地域で何かをしたい人、何か関わりたい人、移住したい人、ビジネスをしたい人など、「地域」というキーワードに引っかかる人には本当にお勧めの本です。

必要なもの、人、条件は既に揃っている。最後は自分の本気度だ
これがこの本を読み終わった時に浮かんできた言葉だ。
この本で主人公は、ものを見る目線が変わり、行動が変わっていく。

地域の現場では「この地域には何もない」「人材がいない」「都市から離れているからチャンスがない」なんて言う人がいるが、この本を読めば、それらは全て幻想であり、実は必要なのは自分自身が本気になれるかなれないかだけであると気付かされる。

木下斉さんの本は結構読んでるけど、これはページをめくる手が止まらなかった。
なぜならば、主人公の目線や価値観の変化が、東京時代〜西会津にUターンした後の私のそれと同じで、他人事じゃなかったから。
そして、西会津(だけでないと思うが)でも似たようなことが起こっているから。
単純に共感が止まらなかったから。

主人公に重ね合わせながら、自分の経験を振り返ってみる。


地元にUターン(自分の体験との重ね合わせ)

私は高校卒業と同時に地元・西会津を離れ、首都圏の大学に進学し、そのまま新橋にあったそこそこの大企業に就職した。

そして、社会人4年目のゴールデンウィークに地元に帰省した時のこと。
偶然、地元の同級生に誘われて、地元の若者の会合に参加することとなった。

特に期待をすることもなく、「どうせしょぼいんだろ。冷やかしにいくか」程度の気持ちだった。

衰退と人口減少で特に面白いこともないだろう、30年前から変わらないマンネリ化した祭りとか地域行事の繰り返しだろう、高齢者ばかりだろう、東京より全てが遅れているだろう、若者といってもどうせマイルドヤンキーか勉強ができなくて都会に出れなかったパッとしない人しか残っていないだろう・・・

なんて思っていた地元。

でも、それがきっかけで、西会津への印象が変わった

Uターンした人が古民家を改装してカフェを開店していたり、地元の若者が自分達のアイディアを実現するまちづくり団体を作っていたり、地元の人と移住者が手を組んで地域の再生プロジェクトが進行中だったり、古民家を改装しておしゃれな宿泊施設ができていたり、地域おこし協力隊が町おこしの活動をしていたり、海外や都会で活躍した起業家が移住してきていたり、役場職員が新しいエクササイズを開発して普及させていたり・・・

都会に出て行くことが先進的で、田舎は都会からのトリクルダウンで生き延びているんだから、どうせ希望もないし何もできない」というような価値観だった自分にとって衝撃だった。

その後、西会津町の役場職員や地元のキーパーソンが東京に来た際に、一緒に飲む機会があり「ぜひ西会津に帰ってきて、一緒に盛り上げよう」と誘われた。自分もその気になり、「地元で何かしたい!」と、西会津にUターンし、役場職員となった。
(一緒に飲んだ役場職員から、次の日に「あなたと一緒に働けるのを楽しみにしています!」という熱いメッセージ付きで、職員採用試験申込書がメッセンジャーで送られてきたのだから、受けないわけにはいかなかった。笑)

西会津にUターンして最初は地域の若者の団体に入って活動をしたり、面白そうなプロジェクトに参加していた。
最初は「自分は大学も出て、都会の企業経験もあり、ずっと地元にいる人と比べて視野も広いから活躍できるだろう」なんて思いた。

が、自分が力不足で、地元のことなど何も分かっていなかったと思い知らされ、理想と現実のギャップに打ちのめされた。

大企業での経験やプライドなんて、田舎のフロンティアなフィールドでは役立たないし、「地域活性化」「地方創生」という名前がついた本を読んだり、セミナーに行ったりして「知識」はあったが、自分にはその知識を実践に変える実力もなかった。つまり、知識をつけただけで「できる気」になっていた。

それから3年くらいは、帰郷したことを後悔して、地域活動からも遠のき、「衰退していくのは全国的に確定なのに、どうせ何をしても無駄だ」と思う日々だった。
役場の仕事を惰性でこなす毎日。「何かしてもしなくても給料は上がっていくし、ボーナスも出るからいいか」なんて考えていた。

しかし、色んな人に批判されながら地域を再生しようと奮闘する人の姿を度々見たり、地元集落がどんどん過疎化している現実を見るうちに、自分の中から「このまま地元が消滅するのは嫌だ」いう思いが湧き上がってきた。

そして改めて地元を見てみると、風景、自然、歴史、文化、人、土地の力。
実は足元の資源が多いことに気がついた。

価値がないと思っていた日常のものや風景を、価値ある地域資源とみなすようになるこの種の変化はなんと呼ぶんだろう。

それからは小さくても良いから何か自分の力でやって、小さくても何か成果を出そうと心がけた。

公務員だから直接稼いではいけないのが難しいが、地元にお金を落としてもらうために人を呼んだり、地域資源を活かそうと活動を始める。

専門の事業者と官民連携し、西会津の自然音の世界発信。70の媒体でサブスクで有料で配信も販売もしている。
色んな人から注目されるようになったドローン事業は、最初はプライベートで自分の身銭を削って買って、それが仕事としてやって良いことになったし、西会津に興味のある人に向けてフィールドツアーを実施し、外貨を地元に落とし、外と内の人の交流にもなっている。
西会津の歴史、文化、伝統を学ぼうと始めた「西会津辺境塾」は自分たちのお金を出し合い、地域を盛り上げている人を講師にしたり、農業や伝統工芸体験の実践を通して学びや体験を得ている。

地域は本気の凡人が変える

本の中にある「地域は本気の凡人が変える」「ヒーローはいない」というキーワードがとても胸に響いた。

本の中にある通り、その地域の地元の人は「うちの町に人材はいないから」と言っているけど、結局自分たちの意に沿わないから無視していたり、自分達で潰してしまっているという構造的問題があることも、その通りだと思う。

今、西会津にも地域を盛り上げているキーパーソンが数人いるが、その頂点とも言うべき「キーパソの中のキーパーソン」といわれる人が1人いる。
西会津内外で注目されているいくつかのプロジェクトの源流を辿ると、最終的には彼に行き着く。

彼も最初に西会津に来た時は、ちょっと専門分野があるだけの凡人だったそう。

しかし、地域での「実践」を続け、公共施設の再生と魅力化、移住者や交流人口の激増、アートによる地域活性化、集落を丸ごと再生、ホテルの開業を行い、成果を出し、今や地方活性化のプロ、地域のヒーローのように位置付けられている。

私自身も、西会津に帰ってきた当初、自分はただの役場職員で専門分野もなく、「手に職もない、専門分野もないただの人に地域活性化なんてできるのか」なんて考えていた。

でも、取り組んでみたら、「音の収集」「ドローン」は私の専門分野になって、色んな人から注目してもらえるようになった。

最初から地域活性化のヒーローなんていない。
ただの凡人でも取り組んでみることで見える世界、できることは多いのだなと感じた。

稼ぐ

この本の中で、表現を変えて何度も繰り返されていたのは、「自分たちで稼いだお金で事業を実施する」だった。つまりビジネスの力で地域に変革を起こしていくということの方法が書かれていた。

公的機関からの補助金など、その財源がなくなったりすればなくなる。そして稼ぐ努力もせずに補助金で暮らしているような人は、補助金がなくなったらどうするのだろうか?地域をさらに衰退させる。
また、補助金に頼るということは、つまり役所から自立をしていない。役所から自立していないから、何か事業をする時にも役所の機嫌を伺ってしまう。言うことを聞いてしまう。その結果、自分の思うビジネスができないということだろうか。

行政内部にいても、行政からの補助金で回っている地域の事業があるし、予算が国から来ているのだから使うように言われることもある。
これでは、地域の民間事業者の稼ぐ力、自立する力がなくなってしまうのではないかと感じた。

だから地方に財源を撒いている国から自治体は自立できないし、自治体から補助金をもらっている人も自立できない。
これが繰り返されてきた結果、今日の地方の衰退はある。

中には国や県、町など公的機関からの補助金だけで暮らしている「補助金人間」のような人もいる。まさに麻薬だ。

それに気がついている人は、公的機関からの補助を一切利用せずに事業を運営している。

そのことが、この本には、物語形式でとても分かりやすく書かれていたし、補助金のばら撒きの末路がどういうものであるかも、その通りであると思う。

ところで「行政は稼いではいけない」と思われているが、本当にそうなのだろうか?と日々思っていた。
この本を読み、むしろ、行政だからこそ地域のために稼がなければだめなのではないかと思った。
「何かを売る」とかそういうことではなく、例えば、地域と域外の民間事業者を拡大する、地元の産品を売るための販路を拡大するのに動き回る、起業家が集まる場所や仕組みを作る、など、できることは多いと思う。

手を切るべき人とは手を切るべき

地方創生や地域活性化が声高に言われるようになり、移住やワーケーションっというようなことを国も推奨している。田舎暮らしのテレビ番組や雑誌も10年前に比べて格段に増えた。

また、本にある通り、地域で少し成功すると、メディアが取り上げたり、口コミが広がったりして、小さな成功でも大きく取り上げられることもある。

そんな状況下なので、「今、都会に住んでいるけれど、地域で何かをしたい」というような人も当然増えてくるわけだ。

西会津でもそういう人たちからの問い合わせはある。
都会に住む人が、地域で成果を上げているプレイヤーに接触を図って「一緒に何かをやりたい」と言ってくることがある。

良い人たちもたくさんいて、地域で具体的に事業に結びついて回っていたり、関係人口から移住者になり、地域で起業して外貨を呼び込むということもある。

しかし、「その地域や活躍しているプレイヤーを利用して、自分の知名度を高めよう」と近づいてくる悪意を持った人もいるわけだ。
悪意をもって近づいてくるのはまだかわいい方で、悪意がなく地域に近づいてきて、無知のまま地域と関わり、地域に大迷惑をかけるという事例もある。

ちょうど本に出てくるような「名ばかりコンサル」や「勝手に会社の名前を使って他地域で迷惑をかける人」と同類のような人を何人か見聞きしたし、少し関わったこともある。

私の中で、どうしても耐えることができず、関係を切らせてもらった事案もある。

・関係もなく、事情もよく知らないのに、地域の人間関係に勝手に入ってきてさらに面倒にさせる
・地域の人を蔑ろにした上、地域の人と、受け入れ役の地域のプレイヤーとの関係を悪化させる
・自分の実績がなく、本を読んだり、セミナーの知識だけしかないのに地域の人に上から目線でコンサルする
・他の人が出した実績を自分の実績にして知り合いに言いふらす
・地域のプレイヤーが持つ他地域とのネットワークを勝手に利用して悪化させる
・自分が原因で何か失敗があっても、全て地域やメンバーのせいにする
・自分が「関わりたい」と言って来ているのに、「受け入れ役の地域のプレイヤーが私の面倒を見るべきだ」と言う
・「西会津に関わってもらって嬉しい」と地域の人が色々と特別扱いをしているのに、「敬意が足りない」と責めてくる
・地域の事業に無理やり入ってこようとし、断られたら悪口を言いふらす

こういう感じの人たちがいた。
その結果、地域の拠点や集落に出入り禁止になったりする。

そうしたら、「この地域はだめだ」と言って別の地域に行ったりして、地域を転々としている。

こちらも色々と努力したが、それでも分かり合えず、地域に迷惑をかけるので関係を切ったこともある。

地域のため、自分の精神上のため、そして自分の事業のため、思い切って手を切るのも大事なのではないだろうか。

消費マインドから生産マインドへ

本書の307ページに「地元はダメだ、未来がない、何もできることはない」と大人が思い込んでいて、それを子供に伝えることに対して、登場人物が「まだできることはある」「外に1度出てみると視点が変わる」と答えている。

私も本当にそう思う。

私はこれを「消費マインド」と「生産マインド」という言葉で考えている。

私が取り組んでいるテーマは、「『地方・地域・田舎』への関わり方のマインドを『消費』から『生産』にアップデートする」ということだ。

消費マインドだと、「スタバがない、ゲームセンターがない、カラオケがない、デパートがない・・・」という言葉で出てくる。つまり、自分が楽しみたい、お客でいたいというマインドだ。
これだと、「都会が上で地方が下」「田舎には何もない」という考えが出てしまって当たり前だ。

しかし、生産マインドでいると「ここにしかない資源がこんなにある、自分たちでやってみよう、ここから価値を生み出そう」という考えになり、そこからどんどんできることを考えていく。

確かに田舎は都会に比べれば、消費的な物的資産は少ないかもしれない。でも、空白が多い分、これまでにない面白いものを作れる可能性も大いにある。

そんなことを考えた今回の読書でした。

#地元がヤバい本

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