月姫からFate/stay nightへの変遷は、強化魔術から投影魔術の変遷とよく似ている

　今回はタイトルに書いたことについて語っていきたいと思いますが、Fate/stay nightについてのネタバレがあるので、注意してください。

強化魔術と投影魔術の違い

　Fate/stay night(以降Fateとします)の主人公衛宮士郎は、物語序盤では、強化魔術を扱うことができ、物語の過程で投影魔術という士郎独自の魔術を使用できるようになっていきます。これをご覧になっている人は、本編を見た方ばかりだと思いますが、本題に入る前に、この二つの魔術についておさらいしておきたいと思いします。

強化魔術

　
　Fateの世界では、人によって決められた魔術回路が存在しており、衛宮の場合、27個の魔術回路がありました。一度構築した魔術回路は、再度使い回すことができるのですが、師が死去したため、衛宮はそれを知らず、鍛錬の度に魔術回路を構築し直し、失敗すれば死ぬかもしれない非効率的なことを毎晩繰り返していました。

　その鍛錬の延長線上にあったものが、物体の構造を把握し、武器と認識することで物体を強化するという強化魔術でした。物語上で、使用されたのは、一度や二度程度で、あの世界観だとないよりはマシだけど、周りが凄すぎるせいで相対的に使えないといった印象のものです。

投影魔術

　自己のイメージからオリジナルの鏡像を作り出す魔術。実在する伝説の武器などを劣化した状態で作り出せることが可能となります。例えば、十の魔力で投影し、剣を作ったとしても、三か四の力しかなく、十の魔力で実在する剣を強化したら、二十か三十の力を引き出せるため、本来であれば、効率の悪い魔術だと言われています。ただ、衛宮の場合、主人公補正がかかり、偽物なのに、本物に近い性能を引き出すことが可能になります。本編ではもっと解像度が高い説明があるのですが、詳しく話すと長くなってしまうので今回は省かせてもらいます。

月姫からFate/stay nightへの変遷

　Fateの制作元であるTYPE-MOONは月姫という同人ゲームからスタートし、その後Fateを制作して、一躍有名になっていきました。月姫は現代異能物に吸血鬼の要素がある作品で、既存の要素を独自の解釈で作り出したようなイメージがあります。ストーリーラインや登場人物、直視の魔眼や吸血鬼の設定など0→１で作り出しているような部分が多く見受けられました。

　
　一方で、Fateの場合、魔術と英霊といった要素で構築され、なんでも願いが叶う聖杯を奪い合う戦争が起き、魔術師同士が殺し合います。ストーリーラインだけ見れば、仮面ライダー龍騎(ライダーが殺し合い、最後に生き残ったライダーの願いが叶う)に似ており、英霊は過去の偉人をベースとしていて、登場する宝具なども実在するものです。よって、0→1を構築した、というよりも、元々ある１→10に変えたような作品といいと思っています。

ベースがあるかないか

　強化魔術の場合、ベースとなる素材はありましたが、強化を行う本人の魔術回路は毎回0→１と構築していました。すでに実在するものを題材にしていますが、素材の構造以外のものを心の中に落とし込めていないため、多大な手間がかかり効率の悪いものとなっていました。

　これは、月姫でも同じことが言え、現代異能や吸血鬼という元となる素材はありましたが、そのベースにあたる存在を作者が想像で補うような形であったため、0→１で作品を構築していたと考えていいでしょう。

　一方、投影魔術の場合、ベースとなる武器を心の中に落とし込み、その心象風景から投影する、という形を取って、偽物でありながら本物に近しい能力を発揮していました。魔術回路に関しても、一度構築した設計図から読み取るといった形で魔術を行使でき、必要に応じて何度も作り直すことができていたので、1→10と言っていいでしょう。

　これは、Fateでも同じであり、仮面ライダー龍騎や、過去の偉人など、明確に実在するベースとなるものを作者が心の中に落とし込み、それを「投影」することで、偽物が本物に近い性能を発揮するストーリー性となり、さらなる人気を博していきました。これも、1→10のはずです。

まとめ

　つまり、Fateは衛宮の成長の過程を、月姫からFateに至った作者自身の成長の過程になぞらえて、ストーリーが進行していた、ということになります。何も知らずにストーリーを追っていても楽しめますが、メタ的に見ても、きちんと月姫から進化して、ストーリーがボリュームアップしているので、さすがは、今もノベルゲームの第一線を走り続けるTYPE-MOON、ないしは、奈須きのこさんといったところですね。自分はまだまだ程遠いところにいますが、爪の垢を煎じて飲んで、少しでも上達したいところです。