クッキーづくりの秘めたる可能性
どうしてこの情報に辿り着いたのかと言われても、わかりません。何しろ結構長い時間をかけてインターネットという情報の大海原を彷徨っていましたので、もう出発点がわからないのです。
しかし、『ドッキー』との出会いは必然でした。
『ドッキー』それは、土器を模したクッキーであります。
考古学者のヤミラさんという方が“専門的な事をお菓子に変換して伝える”というとてもユニークな活動をされておられ、レシピ開発されたようです。
https://cookpad.com/recipe/2876550
クッキー + 土器 = ドッキー
ダジャレをこよなく愛する私としては、見逃すわけにはいかないこのネーミングセンス。『ドッキー』と聞いたところで、クッキーも土器も想像出来ないところがまた、いとをかし、なのです。
つい先日この情報に出会った瞬間、私は「見つけたぞー!!」と歓喜しました。もしかすると、考古学者が遺跡を発見した瞬間のようだったかもしれません。
これ絶対作りたい、と。
もはや先般の健康診断で体重が増えていた事など記憶から吹き飛び、早速ドッキーという名のクッキーを作る事に決めました。
まずは必要な材料のチェックです。
○小麦粉(薄力粉)
うん、大量に家にある。
○砂糖
うん、ある。
○バター
うん、ある。
○卵
うん、ある。
○ココアパウダー(無糖)
ない、買わないとね。
○クルミやアーモンド
ないね、これも購入。
○竹炭(食用)
ハードル竹ぇ!間違えた、高ぇ!とりあえず、お店で聞いてみよう。
○食用色素(赤と黄)
ないね、購入。
○縄文原体
ないどころか、聞いた事すらないね。お店で「すみません、縄文原体ってどのコーナーに置いてますか?」って尋ねてみようか。
縄文原体とか当たり前のように、レシピにぶっ込んでくるのやめて欲しいです。ほんと楽しい。しかも分量に「必要な分」と書かれているので、私はもう混迷を極めていました。
しかし手順を読み進めると、どうやら縄文原体は縄目模様をつけるための撚った紐であれば良いらしく、ティッシュペーパーや薄い紙を撚って作ればいいという事がわかりました。
ああ、土器土器した。
え何か問題でも?
今日はこの調子で最後まで行かせてもらおうかと思っています。
材料を揃えに行きましたが、はやり竹炭(食用)がなかなか手に入りません。「すみませんうちでは取り扱いがなく…」という結果が続き、レシピにはブラックココアでも代用OKと記載されていましたので、最終的にはそれにしました。
食用色素やブラックココアなどは、さまざまな色の土器を表現するために使うようです。
クルミやアーモンドを細かく砕いて生地に混ぜるのは、そもそも土器というものが粘土に砂粒などを混ぜることで割れないように作られているため、レシピでもそれを真似ているそうです。
縄文土器と弥生土器という名前を聞いた事がある、ぐらいの知識レベルなのですが、こうやってクッキーを作りながら土器について知っていくのは、なかなか楽しいものです。
縄文土器の模様は、縄や押し型をころがせて描かれたものの他、棒や竹のようなもので描く竹管文(ちっかんもん)、貝殻などを押し付けて描いた圧痕文(あっこんもん)といった模様がある事も知りました。弥生土器は櫛で描いた模様が特徴的ですが、縄文土器に比べるととても簡素です。
そんな事も調べつつ、いざ、レシピの手順に従い材料を混ぜ合わせていきました。
ベースとなる黄土色の生地を作った後に4分割し、それぞれに食用色素などを加えながら、黒っぽい生地、緑っぽい生地、赤っぽい生地を作る予定でした。
出来上がったのは全部、日本橋にある<たいめいけん>茂出木シェフ色の生地でした。
土器への期待感0%。
もうこの段階で失敗が見えているという不吉な予感しかありません。
理想とする土器からは程遠い色合いです。
原因は、ベースとなる生地にブラックココア(竹炭代用)を入れすぎたためでした。その後食用色素をいくら足しても、色が変わらないのです。
ブラックホールならぬブラックボールは、全ての色素を飲み込んでいきました。
私は形だけでも何とか土器に近づけようと、撚った紐や焼き豚などに使う調理用の紐で、縄模様を描きました。
基本的に水平に割れるという土器片のパーツを、レシピ写真を参考にしながらナイフで切り分け、“割れて発掘された土器片”らしくなるように作っていきました。
土器への期待感2%。
もしかしてこれは、探していた竹炭かもしれない。
祈るような気持ちで190℃に熱したオーブンレンジへ送り出しました。
焼き上がったら少し変わるかもしれない。ほら、土器も焼かれたものですし、まだ希望は捨てません。
いつもお菓子を作る時は、この焼き上がりまでの待ち時間が、ワクワク、土器土器します。
チーン。
いつもと同じ、焼き上がりの合図が聞こえました。
土器への期待感2%から、土器感2%のものが焼き上がりました。
縄文原体の模様など、ほぼ消え去っています。
しかし失敗しても諦めず、次に出来る事を考えて、最善を尽くす。
人生においては、それが重要ではないかと私は考えました。
せめて土器が置かれている環境を、演出として加えてみてはどうだろうか、と。
今まさに発掘された感を演出してみてはどうだろうか、と。
スマホで【土器 発掘現場】と画像検索し、これだという演出を加えてみた結果です。
土器感78%。
何かに勝った気がする。
我ながら、なかなかの土器栄えです。
出来栄えではありません。
私はドッキーを1つ、口に運びました。
細かく砕いたアーモンドとくるみの配合、ココアの配合、サクサクの食感、どれをとっても申し分なく、最高においしい。
小学生の頃、動物クッキーを作るのが大好きでした。出来上がったあと、頭から食べようか、お尻から食べようか、そんなことを悩みながら、少し罪悪感を感じていました。
ただの割れたココアクッキーには“歴史的発見物を食べる罪悪感”を、1ミリも感じられませんでした。
またチャレンジして、少しでもヤミラさんの作るドッキーに近づきたいと考えています。
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