時結い人 第10話
第10話: 未来への誓い
新しい隠れ家に無事たどり着いた葵と龍馬、そして近藤は、静かに安堵の息をついた。この隠れ家は以前よりも山深く、周囲は木々に囲まれているため、幕府の追っ手からはしばらく逃れることができそうだった。
葵はしばらくの間、龍馬の世話に専念しつつも、彼が次第に力を取り戻していく様子にほっとしていた。龍馬の気力と体力は、少しずつだが確実に戻りつつあり、その度に彼が持つ不屈の意志に触れているような気がした。
ある日、山小屋の中で彼らが一息ついていると、龍馬がふと静かに言葉を発した。
「葵、お前はどこから来たのか、本当のことを聞かせてくれないか?」
龍馬の問いに、葵は一瞬緊張が走った。これまで何とかはぐらかしてきたが、彼の鋭い眼差しを前にしては、嘘をつき通すのは難しいと感じていた。しかし、彼女がこの時代の人間ではないことを打ち明ければ、彼にとって信じがたい話であることもわかっていた。
葵は深く息をつき、目を伏せた。
「龍馬さん、私は……今の時代の人間じゃないの」
その言葉に、龍馬は少し驚いた表情を見せたが、彼女をじっと見つめる。その目には、不信ではなく純粋な興味が宿っている。
「どういうことだ?」
彼女は彼の質問に対し、自分が現代からこの時代に飛ばされてきたこと、そしてなぜ自分がここにいるのか自分でもわからないことを素直に話した。彼の命を救いたいという思いが、彼女をこの時代に繋ぎ止めていることも——。
龍馬はしばらく沈黙して彼女の話を聞いていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「お前が何者であれ、俺には関係ない。ただ、今この時代で俺たちとともにいる。それだけで十分だ」
彼の言葉に、葵の胸に温かい感情が広がった。自分がこの時代にいる理由が少しでも正当化されるような気がした。彼の力になれるなら、彼を支えることができるなら、それが自分の役割であると感じるようになっていた。
夜になり、山小屋は再び静けさに包まれた。葵はそっと布団に横になりながら、これからのことを考えていた。龍馬の命を守ることが自分の使命だと感じているが、それが歴史にどんな影響を与えるのかは未知数だった。しかし、彼女はもう迷いを捨てることに決めた。
「私は、ここで生きる。彼を守るために」
その小さな誓いは、彼女の中で大きな決意となって育っていた。自分がこの時代で果たすべき役割は、龍馬の命を守り、彼の志を支えることだと信じていた。
翌朝、葵は龍馬と近藤の二人とともに、今後の計画について話し合う機会を得た。龍馬の表情は以前よりも力強さを取り戻しており、その目には彼が信念を持って進むべき道がはっきりと映し出されている。
「この国を変えるためには、俺たちが命を懸けてやるべきことがある。そのためには、協力者が必要だ」
龍馬の言葉に、近藤も真剣な表情で頷いた。葵はその二人の姿に、自分がどこまで彼らの力になれるかを改めて考え始めた。この時代の出来事に巻き込まれていく中で、自分がどのような役割を果たすべきか、その答えを見つける時が来ていると感じた。
「私も……あなたたちの力になりたい」
葵の言葉に、龍馬は微笑みを浮かべて答えた。
「頼もしいな、葵。お前がここにいることで、俺も少し心強い」
その言葉に、葵の心は大きく揺さぶられた。龍馬の隣で生き、この時代を共に歩むことが、彼女にとってかけがえのない意味を持つようになっていた。
次回、第11話へ続く。
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