まえがき/雨月日記

まえがき

 この文章作品を書いてから十年が経った。その間に自分が成長したのか老いたのかそれはわからない。各自の思い出は他人にとってはつまらないものだが、紆余曲折の中で自分の人生を大事に思う者もあろう、十年という月日は僕にとってなんだか曖昧なものであって具体的なものでもあった。特に語りたいことはないが、僕の住んでいる地域が梅雨入りしたのを良いことに、押入れの中で眠っていたようなこのカビ臭い詩文集(当時僕はこの文章作品たちをそう呼んでいた)を十年越しに引っ張り出して来て、皆様の目の前に一つずつ並べていこうとするものである。この作品は序文を含めた十の文章と一のあとがき、それらに付された同じ数ほどの絵から成っている。もしも稀有で物好きな方がいるとして、この文章作品に「私が絵を描いてやっても良ひ」という方がいらっしゃれば教えていただきたい。ーーーーこれ以上の孤独はつまらない。僕が文字を書き、その僕の文字が踊る様を見て「愉快愉快」と笑い、素晴らしいと褒め、中には絵筆を取って「どれ一筆」などと興じてくれる人が出るような、そんな酒宴の中に居て、酒を飲み、筆を遊ばせつつ笑いながら泣いてみたい。

それでは、御清覧いただければ幸いに思って。

二〇二二年六月二〇日

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