「都市環境学を開く」(尾島俊雄著鹿島出版会)読後感

尾島先生には、10年ほど前には釜石で、防潮堤建設について話す機会を作ってもらったり、さらに6年ほど前には新橋で、釜石での震災復興について話す機会を作っていただいたりしている。この度、米寿記念で出版されたハードカバーの本を頂いた。
これまでのパワフルな活動も承知しているが、このような形でまとめられると、ライフワークとしての都市環境への思いを軸に具体的な活動の思い出が語られ、後進へ託す資料としても有意義に思う。
第1章では地球環境との関係を導入とし、D. バート氏を引用して、「ポストモダン」はともかく、「ポストインダストリアル」(p.25)というが、果たしてそうなのか更なる検証が必要なように感じた。原発立地についても、後処理問題を全国10の神社と結び付けて、時間と祈りを、解決しない問題への目くらまし案としているというように見えてしまう。もっとも都市問題として捉えても、そういうものが必要なのかもしれない。ただ現実には、周辺住民の避難計画や被災者の救済策などが、急務の課題のように思うし、安全に対する意識の甘さを経営者の責任として総括しないと、同じことが繰り返される。
第2章は「大都市の再生」という見出しであるが、今の日本にとって大都市問題よりは、中小都市問題が気になる。「地方自治体の総合政策こそ」(p.50)というが、結局、国の指示待ちになっていることは、この国の大きな政治的課題である。東京や大阪で、水運をいろいろな意味で蘇らせてほしいと思うことには強い共感を覚える。
第3章の「レガシーをつくる」においては、2拠点居住が地域創生の小さな方向転換になるように思う。著者は、3拠点も4拠点も持って活動している。わが国の地政学的にも豊かな各地域を、自然と共生する都市として再生していくことが求められているということへの答えだ。
第4章の「DXとエネルギー」における建築界のまさに今の課題はBIMであろう。ただこれは我々の次の世代のテーマである思うと、そのための知恵と工夫には、主体的に関わる気になれないのであるが、設備工学を含む著者の専門性にあっては、自らの課題のように意識されていることには敬服する。再生エネルギー開発の課題と都市の地域熱供給システムの課題は、まだまだポストインダストリアルなどと言っておれないということではないか。
第5章はまとめの章である。「日本の文化・文明が3万年継承されている」(p.158)という認識は、この国を考える時にもつべき基本と教えられる。尾島個人の災害体験が表(p.177)にまとめられているが、日本の自然の中での体験から社会を考える意味では、誰にも必要なことであり、その積み重ねが結果として3万年の歴史にもなっている。
気候危機対策として、国交省住宅局から知事宛てに「ヒートアイランド現象緩和のための建築設計ガイドライン」の通達が出されたというが、国としては、法律で直接規制するのではなく、自治体に実践の部分はお願いすることが、地方分権一括法からも当然のことである。建築構造基準についても、法律を改正するのでなく、国は情報提供とガイドラインを通達で自治体に示唆することが、しかるべき方向のように思う。逆に自治体がそれだけの知恵と判断力を持たなくてはいけないことを、住民も認識すべきであろう。都市環境の行く末が大きく自治体の行動力にかかっていると思うし、そこに、学界からどれだけ貢献できるかであろう。建築基本法のねらいもそこにあるのだが。
地球人口に関する記述で、世界は西暦前500年で1億人(日本列島に100万人)なのが、今や100億人(p.188)に達しようとしている(日本は1億を超えたものの減少傾向)。100倍の人口増は、自然への負荷の大きさも当然ということであろう。まさにそこが気候危機の要因にもなっている。日本は口ではカーボンゼロ社会とか言ってはいるものの、いまだスクラップアンドビルドに歯止めがかからない中で、2050年までのゼロエミッション実現は可能と思われない。しかし、これからの人口減少でパニックを起こさない限りは、エネルギー消費も資源消費も明らかに減少することを思うと、わが国に限っては楽観できるようにすら思ってしまうのである。
早稲田大学の先生であるが、いかに東京大学とも近い先生なのかということが、末尾の鈴木博之のインタビューで再認識した。それとなによりも、「技術や文明の全否定という立場、技術をもっと進めれば環境は克服できるという余地があるという立場の、ちょうど中間にある」という鈴木の指摘を「その通り」と言っているが(p.201)、実際に画期的な設備計画を実現して来ているこれまでの成果は、どちらかというと技術寄りの姿勢が感じられる。しかし、それを失敗もあるという姿勢で、さらにこれからどの道を行くかと旗を振っていることに、パワーも感じるし、これまでの成果への自信ものぞかせる。多少とも誤解した読み方をしているかもしれないが、環境を考えて、それに向けての言葉と行動で生きていることを、学ばねばと思った次第である。

いいなと思ったら応援しよう!