kanda.jun

2003年建築基本法制定準備会会長 2012年東京大学名誉教授 2015年(株)唐丹小白浜まちづくりセンター代表取締役

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最近の記事

ななちゃんがおばあちゃんに贈ったありがとうの花束(福来良すずめ)を読む

 孫がおばあちゃんに贈ったぬいぐるみ「ななちゃん」の1年間の物語。おばあちゃんは、施設に居て、99歳の誕生日にぬいぐるみをもらい、心を通わせ、100歳で旅立つ。  おそらくは、かなりの部分が、孫の自分の体験からこうしてお話になったと想像する。小生も、施設に居た母の99歳、100歳の誕生日を子どもたちと一緒に音楽で祝ったり、また、日常でもピアノや合唱にも縁があったりするので、とても身近に感じられる。ほのぼのストーリだ。  Amazonの電子書籍というやつで、日比谷の軟庭の後輩の

    • 巨大前方後円墳の謎に取り組んだ跡部正明

       日比谷高校の先輩で月に一度程度、テニスも楽しんでいる跡部氏から、仲間にお知らせがあった「巨大前方後円墳と倭国形成のプロセス」という本を出したというので、取り寄せた。なかなか興味深い。  話は、群馬県太田市の太田天神山古墳から入る。前方後円墳が、古墳文化の中でも権力の集中により巨大なものになったということは、小学校の頃から学んだ気はするのだが、さまざまな規模で、大和以外にも存在し、その意味が解き明かされるのは、歴史の謎解きとして面白い。確かに、文字が残される以前の社会は、日本

      • 「若きウェルテルの悩み」(ゲーテ、高橋義孝訳)読後感

         「ドイツ文化読本」の延長で、直接に味わうのであれば、何か読まなくてはと思って選んだのが、「若きウェルテルの悩み」(新潮文庫)である。1749年生まれのゲーテ25歳のときの作品で一躍有名になったのだという。  内容は、全体が、だいたい友人ウィルヘルムへの手紙の形をとっている。許嫁のいるロッテへの思慕を募らせ、やがては自殺という結末を迎えるのである。そのほとんど最初の手紙1771年5月10日(p.8)の中で、「喜び」が綴られており、それが「ドイツ文化読本」(P.169)に引用さ

        • 「ドイツ文化読本」(坂本貴志著、丸善出版)でドイツを再考

          序にまず登場するのが、ベートーベン(1770-1824)の第九である。そして、おわりは、シラー(1759-1805)の「歓喜に寄せる」の詩で結ばれている。これがドイツ文化なのだということを、ロマネスク様式、次いでルネッサンス期から、順序だててたどっている。そしてそこここで多くの建築が具体的に解説されている。 それは、神聖ローマ帝国の時代でもある。1400年代から1800年代まで、戦争や革命があったけど、体制はあまり変わっていない。皇帝に直属する帝国都市と自治権をもつ自由都市が

          「建築と規範」(後藤伸一著、建築資料研究社2022年)を読む

          日本建築学会の倫理委員会で、倫理についての議論をしているが、まさに建築実務において、本書の内容はシニア建築家が語る「実践倫理」であり、表紙に加えて随所に「利己から利他の建築へ」というメッセージが登場する。 我々の提案している建築基本法は、建築を社会資産と認識することから設計者や建築主、自治体の責務を法制化することにより、現行の「建築は私有財産」であるという認識の法体系を、基本から変革しようとするものである。「利他の建築」はまさにそれに通じるものがあるが、建築法のあり方について

          「建築と規範」(後藤伸一著、建築資料研究社2022年)を読む

          樹木希林の思いを語る内田也哉子

          朝のNHKのラジオにゲストで登場した内田也哉子が語った。「母が亡くなる2週間前の9月1日に、『死なないでね』」と何度も言ったことが気になって、いろいろな人と語り合った内容が本になっている。教育の問題であり、親子のかかわりの問題でもある。 小中高生の自殺が毎年500人を超え、しかも9月1日に集中しているという、不登校問題とも絡んだ課題だ。今の自分にとって切実な問題というわけではないが、教育のあり方については、気になるところもあり、何より、内田也哉子に興味を持った。 樹木希林(1

          樹木希林の思いを語る内田也哉子

          高橋源一郎の歎異抄(朝日新書)

          NHKラジオで、高橋源一郎の飛ぶ教室をときどき聴いていて、いろいろな作家との話がおもしろく、何か読んでみようと、手始めに「歎異抄」を読んだ。 中学・高校生くらいをイメージしているか、よみやすい翻訳ということを意図したと思われるが、もともと短いものなので、本文はすぐに読めてしまうが、後ろに原文がついていて、改めて高橋の翻訳と比較してみると、少し考える時間が延びる。 特に高橋が特異な解釈をしているというようには思われないが、本人が言うように、書とは、書き手と読み手が1対1であると

          高橋源一郎の歎異抄(朝日新書)

          「ブルックリン化する世界」(森千香子著、東大出版会、2023年11月)から学ぶ

          東大出版会のUP5月号に「再開発と空間闘争の記号としてのブルックリン」という著者の記事を読み、都市の再開発と住民の視点について、これは少し学ばねばと、本書を取り寄せて読んだ次第。 ニューヨークのブルックリンで起きていること、ジェントリフィケーション、日本語では富裕化という言葉が相当するのだろうか、今までは再開発という中に存在しつつも、社会として何が起きており、そのまちに住むことがどういうことなのか、十分に意識できていなかった。「あとがき」にあるように、この問題は、全世界の大都

          「ブルックリン化する世界」(森千香子著、東大出版会、2023年11月)から学ぶ

          「アジアの人物史12アジアの世紀へ」読後レポート

          アジアの人物史も、1年半読んできて、とうとう最終巻になった。自分の生きてきた時代が語られる。子どものころ、あるいは、社会人になってからも、表面的に時代の流れの中で泳いでいたものの、近隣で、どんな人物が社会に影響を与えていたのかを、いまさらになって新鮮に知らされたという次第である。12巻の登場人物は、両親の世代の人物が中心であり、歴史が今に繋がっていることを強く意識させられる。 第1章 朝鮮戦争では、何と言っても1950年に開始された戦争が、いまだ収束していない事実を明らかにし

          「アジアの人物史12アジアの世紀へ」読後レポート

          「なぜ福島の甲状腺がんは増え続けるのか?」(福島原発事故による甲状腺被爆の真相を明らかにする会編、耕文社、2024年3月)から考える

          東日本大震災の震災復興において、福島の特殊性は原発事故にある。初めからわかってはいたが、どのように復興に取り組むべきか、という点でも他の地域に比べて、はるかに困難な問題である。日本建築学会で「人為的要因による震災の防止・軽減に向けた技術・社会のあり方について」、2ラウンドの特別研究委員会を富樫豊委員長のもとで実施し、2019年3月と2022年3月の報告書にまとめているが、原発事故に対する議論は必ずしも十分ではなかった。委員会は解散したものの、その後も毎月のように富樫のコーディ

          「なぜ福島の甲状腺がんは増え続けるのか?」(福島原発事故による甲状腺被爆の真相を明らかにする会編、耕文社、2024年3月)から考える

          寺澤行忠の「西行」

          桜の季節ということもあって、新聞の書評で見つけた「西行―歌と旅と人生―」を読んだ。アマゾン恐るべしで、朝ネットで注文したら、夕方にはポストに入っていた。辻邦夫の「西行花伝」(p.30)を1995年に読んでいたが、残念ながら記憶は薄い。本書は、西行の歌の研究者が、歌とともに西行を語るもので、かなり客観的な分析が元になっている。それでも、西行と言えば桜という基本は全編に流れている。 平安時代の武士が台頭し、平家から源氏に時代が変わるときに、平家により親近感をもち、源氏には心を許さ

          寺澤行忠の「西行」

          「いま社会は建築に何を期待しているのか」(細田雅春著)読後メモ

          2021年1月から2023年11月までの細田氏の建築にかかわる思いをまとめたものである。コロナウィルス感染、ロシアのウクライナ侵攻、そして何よりも大きな気候変動問題が思考の根幹にある。グローバル資本主義の市場経済の行き過ぎの認識も、そしてDXとAIの時代をどう受け入れるかも深くかかわっている。 問題の所在の多くは共有できるが、どうしたらよいかを読み取ろうとすると、見えてくることと、気になるところが混在するようにも感じられた。最新の論考から時間を遡るように並べられているのだが、

          「いま社会は建築に何を期待しているのか」(細田雅春著)読後メモ

          アジア人物史9巻に見る19世紀後半の激動のアジア

          明治の日本が作られた同じ時に、朝鮮半島で、中国で、東南アジアで、中東で、中央アジアで、新しい国づくりに知恵を巡らせ、奮闘した人たちがいる。中学・高校で名前を知った人もいるが、全く知らなかった人物も多い。国ごとで様子は変わっても、ここに登場する人物は、今も政治への意識や文化に影響を残しているように感じられる。 第1章では朝鮮の市井の思想家として崔済愚(1824-64)が登場する。西洋の学問とは異なる風土に根差した「東学」を創始するが、徒党の不穏な動きと見た朝鮮王朝は捉えて絞首刑

          アジア人物史9巻に見る19世紀後半の激動のアジア

          「創発」vol.14, no.3(2017)に見る復興支援の評価

          きっかけは、NHKラジオ深夜便の明日への言葉(3月24日4:05am)で聞いた、キャロル・サックのアイリッシュ・ハープによるスピリチュアル・ケアの話。唐丹小中学校とのつながりは、盛岡在の高舘千枝子が相談した、桜美林大の長谷川恵美(スウェーデン留学時に高舘と知己に)による教育支援として、震災直後に始まった。高舘との経緯を踏まえた論考をネット検索で見つけたのが、東京基督教大学の「創発」vo.14, no.3であった。稲垣久和のコーディネートによる、2014年の2件のセッションを取

          「創発」vol.14, no.3(2017)に見る復興支援の評価

          「かわる!いけがみえき」(佐瀬健太朗著)に思う

          大田区の消費者団体「住むコト」で、以前「まだ再開発ですか」というテーマを取り上げたことがあり、2021年に商業施設と一体で新装なった池上駅ビルの写真を載せて、再開発事例としてとりあげた。さまざまな関係者の意見調整がなされたと想像するが、まちとしてよくなったかの評価は難しい。残念ながら、とても十分な検証ができていない。 踏切をなくすことによる安全性向上、駅前広場の整備、区の図書館も入る建築物として、大田区や東急電鉄としては、環境を整えたことになっているのだと思う。全体としての規

          「かわる!いけがみえき」(佐瀬健太朗著)に思う

          大澤昭彦著「正力ドームvs NHKタワー」に見る歴史

          「高層建築の世界史」を書いている著者が、昭和の巨大建築の抗争を歴史としてまとめたもの。実は、昨年末、予告の話を聴いていた。戦後の話は、自分の時代認識とともにあって、登場人物も具体的にイメージできたりするから、プロジェクトを実現しようとするエネルギーも伝わったし、敷地もわかるだけに興味深く読めた。  第1章は、戦後のテレビ放送の開始における日本テレビとNHKのタワー誕生物語。二番町に154mの日本テレビの鉄塔が正力松太郎のパワーで建てられた。一方、NHKも負けじと紀尾井町に17

          大澤昭彦著「正力ドームvs NHKタワー」に見る歴史