世界の高層建築(大澤昭彦訳)を楽しむ

大澤氏には、「高層建築物の世界史」という興味深い書著があって、A-Forumの第18回フォーラム(2017年6月)「高さをつくる心と力」にお呼びして高層建築について語っていただいた。そんなこともあって、この度はZack ScottのScrapersの翻訳書「世界の高層建築」をお送りいただき、楽しく読んだ。
筆者が、岩波科学百科に超高層ビル(skyscraper)の項を執筆したのは1989年のことで、わが国は法的には60m以上、一般的には100m以上などと書いたのが、はるか昔のことと感じ入った。Skyをつけずに、単にScrapersで、超高層を意味するようになってしまったのにも、驚いた。「突き抜けたもの」という感覚であろうか。
建築は「強・用・美」とヴィトルヴィウスの時代から言われているが、このグラフィック・デザイナーの書いた高層建築もまさに、地震や風に対する安全性、住居かオフィスか展望用か、さらには、形態の把握と総合的に捉え、かつそれをビジュアルと一般の用語で解説している。高層建築って何?という問いに対して、時代と作る人のこころ、作る技術者の力を表現していることを強く感じた。
高層建築について、カラーとモノクロの写真、あるいはグラフィックを、つないで貼り合わせせたような表現については、そこから何を感じればよいのか、正直よくわからないままであったが、ただおもしろいということで良いのかもしれない。なにごとも、新しい試みは、思い切ってやることが大事だ。
ストーンヘンジからOne World Trade Centerまで人類の営みという目で構築物の歴史を大きく捉えさせてもらった。超高層ビルといえば、N.Y.のクライスラー・ビルとエンパイア・ビルだなと思ったし、ピレッリ・ビルがあるのも嬉しかった。
上海やドバイが、超高層ビルの集積地になっているのも、まさに経済力こそがSkyscraperの原動力であるし、実現できる経済力を形にしようと思えば、ある意味でやりやすいのが、超高層ビルということなのかもしれない。でも、そこには、作りたい人の想いを実現させてくれる設計者が必要のことも確かだ。
岩波科学百科では、末尾に「かならずしも居心地の良い場所を提供できているか疑問なばあいが少なくない」などと、こどもたちに向けて魅力を伝えるといるよりは、問題意識を投げかけるという無理をした。本書では、その点、居心地が良さそう、あるいは、行ってみたいと思わせる、魅力が表現されている。
設計者が明記されている場合もあれば、そうでない場合もあるが、わが国のScraperとして取り上げられているのが、東京スカイツリーのみというのは、オリジナリティという点で、なかなか軍を抜いた超高層ビルがないということかもしれない。法隆寺の五重塔や、薬師寺の東塔などは、著者の選択範囲に入っていたのか、気になったところではある。
建築に興味をもってもらうという意味でも、「どうして?」に対する入口をいくつも表現していることで、楽しさ満載の本だ。


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