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福井市至民中学の改築の物語に思う

今、地元の小学校の改築問題が地域で議論になっており、どうやって設計に参画できるものかと思っていたところ、構造設計でかかわった金田勝徳氏より「建築が教育を変える」(しみん教育研究会編、鹿島出版会、2009年)を紹介された。
中身は、公立の学校の計画でこんなことが出来るのだ、という驚きの連続である。まずは、異学年型教科センター方式を新しく採用するという教育委員会の判断。それを新しい教育システムとして、実現しようとする人たちの熱意と実行力。その中に、学校建築の設計があり、大きな力を発揮しているということだ。
神戸芸工大卒で、鈴木成文先生の薫陶を受けた設計者は柳川奈奈さん。教科ごとの生徒のクラスターを形にするにあたって、葉っぱのかたちをイメージして、平面に落とし込み、それを実現してしまった。プロポーザルで12件の応募の中から勝ち抜いた。福井大学の松下聡先生が審査委員長を務めていて、教科センター方式への強い思いが、まずは実現への第1歩になっており、そして、それを支える教育委員会の職員の熱意が現実を変えたということは、感動的ですらある。
「これらのワークショップ、福井市全体で改革の流れを作っていきたい、そして教育への議論が積み重なっていく土台を作りたい、という教育委員会の思いにより実現したものである。私たちは、設計に1年半を費やした。この時間は、学校の開校を1年遅らせた。」(p.84)丁寧な設計の議論が、多くの関係者の間で面倒がらずになされたことが、感じられる。何のための学校施設で、どう使うのか、今日の公共建築の改築で、欠けている議論ではないか。
金田氏のコラムにもある。「普通の学校にしてください。なぜこの学校だけが違うのかと騒がれると困るのです」ということが多い中で、ある意味、学校建築は退屈な構造設計であったが、至民中学は、福井大学の先生やJSCAのレビューも受けて大変だったと述懐しているのも印象的だ。
70分授業とか、教科クラスター運営とかのご苦労も記されているが、「地域と協働する学校づくり」は、まさにこれからの公立学校のあり方として、どこでも丁寧な検討を進めるべきことである。それぞれの地域でのそれぞれの工夫が必要だし、そのためには、地域と一緒に設計の段階から丁寧な議論が欠かせない。
動き出した、新しい至民中学の教育システムについて、県内高校教諭が「21世紀の新しい学びのスタイルが具体化された素晴らしい学校で、県立高校にも新しい風が吹くことを願う」(p.182)と述べている。中学・高校だけではない。福井だけではない。日本全国どこでも、そして小学校・中学校の改築にあたって、効率的に改築事業として進めるのでなく、教育委員会と教職員、生徒、そして地域の人たちが、これからのあり方を、学校建築の設計を、もっともっと議論する場が必要である。

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