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実際に婚活をしていた立場としては共感する部分と違うと思う部分が混在する「傲慢と善良」辻村深月

婚活小説として有名らしい、辻村深月の「傲慢と善良」を私は読んだ。
その感想としては。
実際に婚活をしていた立場の自分としては。
その内容に自分としても共感する部分と違うと感じる部分が混在していた。

本書では結婚相談所を経営してる小野里という女性の口を通して。
婚活をしている男女は一見は普通の人で良いとして、謙虚に見えるのだが。だが実際には。
「自分にはこの人じゃない、ピンとこない。ドラマで見たり、話で聞く恋愛ができそうにもないと、ご自分にたとえ恋愛経験が乏しくても、「この人ではない」と思ってしまう。その上皆さん、他人から理想が高いのではないかと指摘されるとたちまち否定されます。理想が高いなんてとんでもない。ただ、今回のお相手があわなかっただけで、自分は決して高望みをしているわけではない。と。とても謙虚な様子でむきになられて。」

「皆さん、謙虚だし、自己評価が低い一方で、自己愛の方はとても強いんです。傷つきなくない、変わりたくない。高望みするわけじゃなくて、ただ、ささやかな幸せが掴みたいだけなのに、なぜ。と。」

「現代の日本は、目に見える身分差別はもうないですけれど、一人ひとりが自分の価値観に重きを置きすぎていて、皆さん傲慢です。その一方で、善良に生きている人ほど、親の言いつけを守り、誰かに決めてもらうことが多すぎて、`自分がない`ということになってしまう。傲慢さと善良さが、矛盾なく同じ人の中に存在してしまう。」

「その善良さは、過ぎれば、世間知らずとか、無知ということになるのかもしれないですね」


「ピンとこない、の正体はその人が、自分につけている値段です。」
「ささやかな幸せを望むだけ、と言いながら、皆さん、ご自分につけていらっしゃる値段は相当お高いですよ。ピンとくる、こないの感覚は、相手を鏡のようにして見る、皆さんご自身の自己評価額なんです。」

現実にもこうした傾向は特に婚活女性が陥りがちだとされる。
実際よりも自分の異性としての魅力や結婚相手としての価値を高く見積もり過ぎる。
口では普通の人でも良い、そんなに相手に優れた容姿や学歴・収入などをもている訳ではないと言いつつも。
実際にはその平均が婚活市場にいるアラフォー未婚男性達に求める基準としては全く平均ではなく、高水準になっているとか。

確かにそのような事例も婚活の場では数多く、存在はするのだろうが。
他にも婚活では加点方式よりも減点方式で相手を見てしまいがち。
そうすることにより、自分が相手を選ばない理由を探してしまいがち。
現実にそれらの傾向も婚活をしている男女には見られることもあるのだろうが。

しかし、特に女性達の多くが悩んでいるのは。
やはり、私も含め、婚活に難航する女性達の特徴として。
異性のストライクゾーンが狭い傾向・相手の男性を人間的に好き・相性が良いだけでは好きにはなれず、異性としての興味や魅力を感じられる相手ではないと好きにはなれない。
(別に私の場合はスマートな男性のエスコート必須・絶対に割り勘は嫌だとか、長男や他県の相手は不可。それから高身長ではないとだめとかいうものはないものの。)

婚活に苦戦する女性達にはこれらの共通点があるように私には見える。

更にこれらの傾向に加えて、本人達の年齢もアラフォー世代・そして特に本人達の条件が良い訳でもない傾向。
これらの要素が加わることにより、一層、選べる相手の幅も狭くなり、必然的に彼女達の相手探しが難しくなる。

特に自分達と同じアラフォー世代で未婚男性ともなれば。
低収入・バツイチ・子持ち、あるいは年収などはそれなりにあるものの、異性としての魅力に欠けるなど。
(あるいは異性としての魅力に欠けるというよりも。自分の異性としての魅力を効果的に表現できないということもあるのかもしれないが。)
どうしてもこのような男性達ばかりと婚活の場では遭遇しやすくなる。
女性達からすれば絶望的に難しい相手探しになっていくのである。

一方、婚活に向いている女性は。
相手の男性に異性としての魅力を感じなくとも。
人間的に相性が良い・人間として信頼できる・友達のような感覚でも
相手を好きになれるなど。

そして、「31歳BLマンガ家が婚活するとこうなる 新書館」が有名な漫画家であり、本人も美人の上、当時はまだ30歳前半という年齢のため、婚活では非常にモテたらしい漫画家の御手洗直子などもそうしたタイプの女性なのだろうと想像される。

他にも「傲慢と善良」について、私が感じたこととしては。
確かに特に架が婚活で感じる自然に好きになれる相手を探す難しさ、恋愛の遊びや楽しさの部分が排除され、自分の社会的な存在としての価値のみが試される。

この先の見えない婚活の辛さなどについては私も同感する部分である。
多くの婚活をする女性達の感じる、あのしんどさについても上手く表現されているとは私も感じる。

ただ、折角、この話の架と真実が出会ったのも婚活アプリだというのに。
そもそも、性格も生活環境も何もかもが正反対であり、共通点などもなさそうな彼ら。
そんな彼らがどんな理由からマッチングをすることになったのか。

その肝心な部分が最後まで、この話の中では出てはこない。
更になぜ特に架が真実を結婚相手に選んだのか?
その具体的かつ納得のいく理由も最後まで描かれないままだった。

真実が没個性で過保護に育てられた箱入り娘であり、特別秀でた部分もなさそうな女性なのに。
母親の愛ゆえのひいき目か。
実際よりもそんな自分の娘の価値を高く見積もっている母親の影響もあり、同様のいかにも地方の狭い価値基準の中での不釣合いな高い自己評価。
けして偏差値が目立って良い訳でもなく、さらに一地方の有名な女子大卒という学歴に対しても。
これも実際のその価値よりも強いと思われる、真実の強い自負。

これとて、母親から無批判に受け継いだものなのだが。
いつの間にかそれを彼女は自分の価値観として受け継いでしまっている所。
無自覚のそれらの彼女の無知にも基づく傲慢さと甘え。

更に実際には自分は地味な一重の平凡顔であり、性格も地味、また特別に女性として魅力的でもないのにも関わらず。
いかにも架のような都会的で洗練されたイケメン好きな傾向。
だからこそ、好人物ではあるものの、服装にも無頓着であり、デートでの振る舞いなども全体的に泥臭い。
そうした金居に対する、真実の明らかな軽蔑。
また、そうした不満を友人にも話してしまう彼女の傲慢さ。

それから言わば結局はマリッジブルーから大勢の人間を巻き込んで振り回す、これまた幼稚で人騒がせな真実の行動。

そんな未熟さや真実から感じる、意外に強烈なその自己愛などを敏感に見抜く、美奈子などの架の友人が辛辣なことを真実について言いたくなる気持ちもわからないでもない。

実はインスタ好きであり、実際よりも可愛らしく見せている自分の顔を掲載し、「マミ・デイリー・ラブ・ライフ」という気恥ずかしいタイトルで、恋人の架と出かけた場所や店の写真を自慢気にインスタに掲載してしまうことなどからも透けて見える、強いその彼女の自己顕示欲や自己愛の強さ。
(たぶん、実際の想像される真実よりは可愛らしく描かれていると思われる、表紙のイラストはインスタの写真の中での、キラキラとした真実のイメージなのだろう。)


これらの真実の意外な一面を架の前で指摘していた女性の友人達に対して、これも架は真実を擁護するのだが。
そうした彼女らから冷ややかに見られる一面、それも明らかに真実の一面だろう。

一方、どうも最後まで架から見た真実の姿は綺麗過ぎる・いい子過ぎるように見えるのも私の違和感の中の一つである。

どうしてもその意外な真実の俗物傾向(インスタ好きとか。わかりやすくモテるタイプの恋人の架や行動的で目立つ外国人の同性の同僚を自慢に思い、こうして目立つ人物と恋人や友達でいることで、自分の価値を感じようとかする部分など。)や冴えない部分や嫌な部分ばかりが目立ってしまい、真実固有の個性や魅力というものを私は感じることができなかった。

かと言って、そんな真実の恋人の架の方も特別に個性があるとか、魅力的な人物でもなく。
父の自営業を継ぐまでは広告代理店勤務という、いかにも都会的でスマートでコミュ力のある、明るいイケメンという、その架の魅力も表面的で、深みに欠ける。
そして非モテで地味であり、そんなに自信もない真実に対する架の態度もまるで、少女漫画の王子様である。

反対に結婚相談所で真実が知り合った男性達であり、彼女自身は嫌いらなかった相手の男性達。
この金居や花垣などの服装や振る舞い、あるいは会話能力などに欠けた点がある彼らの方がいかにも婚活にいそうな男性達として、リアリティがある。
経歴は良いのに垢抜けず、男性としての魅力には欠けるとか。
見た目は素敵なのにコミュ障だとか。

架と真実の関係が最初から対等ではなく、終始、どこか兄と妹であるかのように映る点も私の中での不快感の原因の一つである。
架の昔の恋人である亜優子も真実同様、彼よりも年下の女性ではあったものの。

彼女は完全に経済的にも精神的にも自立しており、仕事もできる有能な女性であるせいもあるのか。
架と彼女の関係は対等な印象であり、あくまでも架の彼女に対する呼び方も「アユ」である。一方、なぜか架は真実に対しては「ちゃん」付けだし。

こうした点からもどこか初めから架と真実の関係が対等な恋人同士というよりも保護者と被保護者のような印像を私は抱いてしまう。

それまでの保護者が今後は真実の両親から夫の架になっていくだけというようにしか、私にはあの最後は見えなかった。
いろいろ夫婦生活を送る中で、真実ももっといろいろと成長したり、架との関係性も変化していくということなのかもしれないが。
しかし、この話の中ではそこまでの、真実や彼女と架の関係性の大きな変化の予兆のようなものまでは私には感じ取れなかったので、不満足。

そもそも、何よりもこの話が一見、リアルに婚活男女の実態を描いているようでいて。そうではないと思う一番の部分は。
そもそも、基本的にマッチングアプリでは同じくらいの、異性としての魅力のある男女がマッチングをして、交際や結婚をする傾向なので。

都会出身の、華やかなモテ男の架と地方出身の、地味で非モテ女性の真実のような男女はマッチング自体が成立しずらいと思われる。
架の方は婚活アプリの中ではそこそこの人気会員だったのではないのか?とも思わせる男性だし。

そうした、一見、リアルな婚活男女の姿を描いているようでいて、少し非現実的と感じる、そうした点についてはぐっどういる博士の、この小説について触れた動画の中でもそのように指摘されているし。

書籍『傲慢と善良』の紹介:ゆるふわゼミその181

https://www.youtube.com/watch?v=Eq7Slh1jPPA


そうした、異性としての魅力レベルにおいては明らかに相違があり、不釣合いに見える架と真実がこの話の中でカップルになったのは。
おそらくは多くの読者が共感しやすいと思われる、地味で平凡な真実のような女性が女性読者の興味を引きやすいと思われる、架のようなイケメンと婚活で出会って結ばれるという、少女漫画のような展開にしたのだろうとして、ぐっどうぃる博士としての分析。

そして現実に婚活をしたことのない人々にとってはそんなものかと思わせるくらいの、微妙にリアリティがある内容。

確かに自分を含めた、多くの婚活をしたことがある女性読者達からすれば。
何でこんな冴えない地味・平凡な真実のような女性が架のような男性から結婚相手として選ばれるのか?
腑に落ちない、非現実的なのでは?と感じた女性読者の方が多いはず。

婚活パーティーやマッチングアプリでも異性の外見や魅力が同レベルと思われる男女がカップリングをしたり、マッチングをしている、現実の数々を見てきた婚活女性達としては。

現実としては架のような全体的にバランスが良く、それゆえに女性受けもしそうな男性は真面目にマッチングアプリで交際・結婚相手を探しているというよりも。
むしろ彼のような男性はヤリモクに多そうなタイプであり、マッチングアプリで真面目に活動をしていそうなのは金居や花垣のようなタイプだろう。

真実のような恋愛経験ゼロの割には男性に対しての理想が高い、真実のような女性はいかにもマッチングアプリでは国際ロマンス詐欺やヤリモクにだまされそうな女性であるし。

真実は表面上は魅力的な男性である、ヤリモクの架と婚活アプリで知り合い、交際をするものの。
実は誠意のないヤリモクであった架にもて遊ばれて傷つき、一度は婚活アプリを退会し、婚活も止めようかと思い始める真実。

最初はあまり自分のタイプではないと敬遠していたものの、実は誠実な金居あるいは花垣の良さに惹かれていく真実。
最終的には彼らのどちらかと結ばれる。
いっそ、そんな展開にでもした方が婚活を扱った小説としてはもっとリアルで面白かったのでは。
一般的な意味では素敵な男性ではないかもしれなくても。
それでも私にとっては素敵な男性、たった一人の男性とやっと婚活で出会えみたいな。

この「傲慢と善良」、文庫カバーの文章の中では「傑作」と銘打たれてはいるものの、私の感想としては凡作。

最後までそんなに真実が人間として、大きな成長を遂げたとか、魅力を増したとかいう印象も私は受けなかったこともあり。
他の理由としては全体的に真実という女性が魅力や個性に欠けている点。

だからと言って、対する架の方もそんな真実と比べて、際立って魅力や個性があるという訳でもなく。
また、何で架と真実が最終的にお互いを結婚相手として、選ぶことにしたのか、その理由もよくわからず。


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