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中2理科の化学反応式を【理解】する(9) 酸化還元反応と金属の序列

中学校理科の教科書を読み進めています。

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中2理科 還元反応

2.酸素を失う化学変化ー還元

酸化鉄 + 炭素 → 鉄 + 二酸化炭素

  • 鉄は錆びて酸化鉄になる。自然界では鉄は酸化鉄(鉄鉱石)の中に元素として存在している。

  • 炭素が主成分のコークスを鉄鉱石に加えて加熱すると,単体の鉄を取り出せる。

  • 酸化物が酸素を失う化学変化を還元という。

【実験】酸化銅と炭の粉末を混ぜて加熱する。生じた気体は石灰水を濁らせ,残った物質は金属光沢を持つ。

酸化銅 + 炭素 → 銅 + 二酸化炭素

$${2CuO + C → Cu + CO_2}$$


物質と酸素との結びつきの強さ

 最初に学ぶ還元反応は鉄の製錬ですね。製錬とは鉄鉱石に炭素を加えて熱することで,金属の鉄を得ることです。製錬の本質は何でしょうか。それは酸化物が酸素を失う反応で,還元と呼ばれます。酸化とは逆の反応ですね。

【酸化】 金属 + 酸素 → 酸化物
【還元】 酸化物 → 金属 + 酸素

 この式を見て思い出すのは,最初に扱った酸化銀の熱分解です。こんな反応でしたね。

酸化銀 → 銀 + 酸素

 この反応の類推から,以下のような「酸化銅の熱分解反応」が可能のように思えますが,実は不可能です。

【不可能】 酸化銅 → 銅 + 酸素 

 なぜ不可能なのでしょうか?実は物質によって酸素との結びつきやすさが違います。つまり、銀は酸素との結びつきが弱いため、加熱するだけで酸素が取れますが、銅は酸素との結びつきが強いと考えられます。

 では酸化銅から酸素を引き剥がすにはどうすればよいでしょうか?そうです,銅よりももっと酸素と結びつきやすい炭素を混ぜてやれば良いのです。

酸化銅 + 炭素 → 銅 + 二酸化炭素

これを原子論的世界観で捉えたものが以下の化学反応式です。

$${2CuO + C → Cu + CO_2}$$

 酸化銅に含まれていた酸素は,炭素によって引き剥がされて二酸化炭素となって放出されます。ここで炭素は酸化されていることがわかります。結局,「酸素との結びつきやすさ」は以下の順に強くなると考えられます。

銀 < 銅 < 炭素

 酸素を銅から取り除くには、酸素と結合しやすい炭素を使用する必要があります。このプロセスは、2つの反応に分けて考えることもできます。

【酸化反応】 炭素 + 酸素 → 二酸化炭素  :酸素がくっつく反応
【還元反応】 酸化銅     → 銅 + 酸素 :酸素を失う反応

 結局,先ほどの反応は酸化と還元の両方が同時に起きています。ですから,これをまとめて【酸化還元反応】と呼ぶことができます。

【酸化還元反応】 酸化銅 + 炭素 → 銅 + 二酸化炭素

金属の身分制度

 金属には酸素との結びつきの強さに違いがあります。銀と同様に,酸化水銀も熱分解で酸素が発生します(酸化水銀は猛毒なので学校教育には出てきませんが)。一方,銅や鉄の還元には炭素が必要で,加熱に必要な温度は鉄の方がずっと高いです。そうすると,金属には序列のようなものがあると考えられます。

 古代から知られていた七つの金属として,金,銀,水銀,銅,鉛,スズ,鉄がありました。中でも金と銀は自然界で単体として得られる数少ない元素で,その金属光沢は人間の心を魅了してきました。

古代の七金属。錬金術師たちは天空の秩序(マクロコスモス)が地上世界(ミクロコスモス)に反映されると考えていたので,惑星と金属を同じ記号で表していた。

 錬金術師たちは錆びにくい金や銀などを貴金属,それ以外の錆びやすい金属を卑金属と呼びました。金属の種類の違いは,その錆びやすさにある。そして,錆びやすさとは,酸素との結びつきの強さでもあります。

 金を錬成したいと願う錬金術師たちは,熱分解によって現れる銀や水銀の金属光沢や,炭素と混合して加熱すると得られる銅や鉄の金属光沢を見て,おおいに魅了されたことでしょう。これらの金属に黄色い色をつければ,金になりそうだ,あと一歩だと。私も中学理科の還元の実験を見ると,同じような想いに包まれるのです。

金属光沢は,高貴なるものの証。そしてそれを失うことは,卑しきものへの転落である。

よく眠れる理科のおはなし

 私は,錬金術師たちが金属を見る眼差しの中に,酸化還元反応の考え方の萌芽を感じます。金属の燃焼は物質をくすんだ色に変え,汚れた外観を与えます。錆びた鉄も同じです。金属光沢を持っていた鉄が,みるみるうちに錆びて赤茶色の土のようなものに変化してしまいます。これらは人間がなにもしなくても勝手に生じる,自然な変化です。

 ところが,還元とはその赤茶色の土に錬金術的な操作を人間が加えることによって,あの金にも似た金属光沢を取り戻す術である。そう考えた時,還元とは金属酸化物が光沢を取り戻すことであると言えないでしょうか。

金属光沢の由来と還元反応

 金属光沢とは何でしょうか。金属も原子でできていますが,実は原子同士が,金属全体に広がった「自由電子」で包まれていることを高校化学で学びます。これを金属結合と呼びます。金属内部で自由に動ける電子が光と相互作用して,特定の色の光だけを反射することができるのです。金属とは自由電子の海であるとも言えます。

 そう考えると,高校における酸化還元の新しい定義がうっすらと見えてきます。

【酸化】 他の物質に電子を与えること
【還元】 他の物質から電子を受け取ること

 中学校では,酸化還元の定義は酸素の授受で説明されますが,酸素は目に見えません。ましてや,電子なんて理解できません。もしも目に見える形で,つまりミクロな世界を想定せずに現実世界の中だけで酸化還元の定義を行うとしたら,私は以下の定義を提案したい。

【酸化】 金属が光沢を失うこと
【還元】 金属酸化物が光沢を獲得すること

 こんな定義はどこにも載っていないし,錬金術師がそう考えていたかどうかも不明です。しかし最初の認識としては金属光沢に注目した定義があり,その次に酸素に注目した定義を持ってきた方が,子供の思考の流れに合っているのではないか,と考えています。

 中学校の理科では、金属は光沢があり、電気を通すという特徴を持つと習います。しかし、実はこの金属光沢と電流は密接に関連しており、どちらも電子が関係しています。これが中学3年理科の「イオンと電池」の学びにつながっていきそうです。

 金属には身分制度に似た序列がある。その序列は光沢の有無,すなわち錆びやすさと関係している。錆びやすさは酸素との結びつきの強さを意味し,さらには,金属原子が持つ電子の放出のしやすさ,つまりイオン化傾向へと少しづつ認識が広がってゆくのです。

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