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スケキヨ

 顔がどぅるどぅるだ。某有名韓国通販のコスメを購入したら、個包装の顔パックが二枚も着いてきた。別の箱には正規サイズのアロエ洗顔料が付いてきてびっくりする。明日はおめかしをしなければならない日なので早速個包装パックのうちビタミンCを押し出しているほうを顔に貼った。

 そしたらどぅるどぅるなのだ。つかんだ手の感触はもっちり水分たっぷり!なかんじで期待が高まったのだが、顔の上で徐々に下に滑っていく。あまりにもとろとろの美容液がたんまり含まれているのだろう。やっとこさ顔の正しい位置におけたけれど、ここからちっとも表情を動かせない。それなのにくしゃみが出そうだったりして油断ならない状態だ。そっと立ち上がって布団乾燥機をつけて布団をあたため、せめてくしゃみの根本を経とうとする。永遠に乾きそうにないパックだけれど、どれぐらい顔に載せていればいいのだろう。なんとなくレモンの香りがして、ぐんぐん顔に水分が行き渡っている感触はある。きっと買ったら高いんだろうなぁ。

 顔パックをするお年頃になって、初めて「犬神家の一族」をちゃんと認識した。大学生だったか、社会人だったか、風呂上がりに顔パックをしてリビングに行ったら、父から「スケキヨだ!」と叫ばれたのだ。なんなのか分からなかったけど、おおいに驚きと恐怖を滲ませたわざとらしい顔が反抗期の名残を引きずっていたもんでむっとしたのを覚えている。たぶん大学生だな。

 母から「犬神家の一族」の登場人物だと聞いて、ググって納得した。顔面がぬるっと白い。それまでなんかのホラー映画の一場面とだけ認識していた「湖から足だけ飛び出している」のがこの映画だとはっきり結びついたのもこのときだ。

 怖い物全般苦手なもんで絶対に観ないと思っていたが、そんなに怖くないという母の言葉を信じてちょっと映画を観た。たぶん怖くなかったんだと思う。全然話を覚えていない。もしくはこわくて途中で止めたかの二択だ。

 わたしが顔パックをする度に父は律儀に「スケキヨ!」と叫び、によによしつつ、ちょっと羨ましそうな顔でこちらを伺っていた。今度あんまりどぅるどぅるじゃない顔パックをさせてあげよう。意外と美容への関心が高い父である。

 一人暮らしをしてからは騒ぎ立てる人もいなくて寂しいけれど、今日のどぅるどぅる騒ぎは一人でも盛り上がってよかった。あとは明日の顔面がよければ完璧だ。今のパック顔も父に写真でも送っておくかと思ったけど、どうあがいてもスケキヨなのでやめといた。

 そういえば父も母も、菊の品評会をみても「犬神家!」と盛り上がる。なんかふわっと思い出したけど怖い場面なので書かないでおく。




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