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未だそれは青く光っている。

 八時間睡眠に躊躇がなくなった。

 「眠る」は何もしていない時間だと思っていて、生産性がなく、とても寂しい時間だと思っていた。「眠るのが好き」と言える人に、うっすら疑念を抱き、「眠るのが趣味」という人は嫌煙した。確か高校生。それぐらいから私の人生は充実と生産性が課題になり、睡眠はその対極にいることだったのだ。 
 高校はいわゆる進学校というやつで、今思えばちょっとしたブラック企業のような毎日を過ごさせられていた。始業より早く来て自習をして、一日中勉強漬け、終業後も自習。帰宅してからもこなさなければならない宿題がある。そりゃ将来のため、って言われればそのとおりかも知れないけれど、あたりまえに毎日の睡眠は削られていた。宿題はちゃんとやらないとめちゃくちゃに怒られる。数学の宿題の答えを写して行ったらみんなの前で大声で怒られた。叱責した先生のことは今でもだいきらいだ。
 たとえ私が悪くても、嫌い。

 ストレスは多く、充実感はなく。若い私は睡眠時間が削られようと趣味の時間が欲しかった。夜中一二時まで宿題をして、それからオタクな活動に励んだ。漫画を読み、インターネットをみた。そうして朝は五時に起きて高校に行く。

 青く黒い河があって、渡り、高校へ向かう。その河にうつる街灯が星のようでキラキラ。本物の星もいたのだ。まだずっと眼の底にいる。たぶんこの光を抱いたまま、私はこれからも太陽の昇ろうとする街をみる。太陽が沈む街をみる。夜の青さはあの暗い光の寒さと心地よさを思い出させる。もう冬だ。わたしが思い出す高校はいつだって冬で、リノリウムの廊下は石よりも硬い。

 

 最近は八時間近く寝ている。眠りに恐怖を抱かなくなった。別に不眠症になったことはなくて、ただ脳みそが理屈を捏ねてはしゃぎ、その日を延ばしたかっただけだった。

 もう思春期の体力があるはずもなく、なんなら自律神経は言うことを聞かないから躊躇なくたくさん寝る。大人になった私は、嫌な場所から逃げる選択肢を覚えたし、いつだって逃げ出す覚悟ガンギマリなのだった。そうすると今日の不十分さも許せるのだ。もちろん毎日楽しくしたくて私は小躍りに日々を過ごしている。場所を選ばず踊っては後輩に止められている。でも踊れない日があっても、明日に持ち越す勇気を知った。

 今日も寝る。七時間は絶対に寝る。

 真冬と呼べる寒さに囲まれて、羽毛布団に潜るしあわせ。

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