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焼肉弁当に非はないからさ…

 無印のカカオトリュフが好きだ。特にフィジーキャンディ入りのが大好きで、三袋買ってきて実家と友人、自分用にした。チョコの味が濃厚で、一粒で満足できる。まぁでも、二粒、いや三粒ぐらい食べちゃうけれども。
 友人は気に入っただろうか。本当はこの年末年始に遊ぶ予定だった友人だが、色んな事情で遊べなくなってしまった。それでもお土産を渡したいと数分だけ家に寄ってくれたのでこのチョコを渡した。
 彼女は正真正銘幼なじみだ。正真正銘、なんて誰も疑ってないだろうけど、自分たちが一番怪訝な顔をして幼なじみを名乗っているのだ。小学校一年生からのお友達。毎回自分たちの友人歴の長さに震え、真顔になり、爆笑するのが私たちのスタイルだ。

 無事他県の自宅に戻り、働き始めたらしいその友人からラインが来た。職場のみんなでお弁当をとって食べたそうだ。ちょっと豪華な美味しい和定食。えー!いいな!わたしの職場じゃそんなことしたことないや。とラインを打ちかけて止まる。
 記憶を葬りかけていたけれど、前の部署でみんなで弁当をとったことがあった。あったな、そんなこと。ちょうど某感染症が流行っていた時期で、部署の忘年会など用に集めている会費をどうにかしようと苦肉の策で弁当が注文されていた。
 どこぞの高級焼き肉店の焼き肉弁当。つやつやのてりてり。ちょっとよさげな黒い器。

 でも味を覚えていないのだ。

 覚えているのは真っ暗な執務室。真っ暗なパソコンの画面。そこに映る楽しくなさそうな自分。

 昼休みは節電のため電気を消すのがスタイルの職場である。でもその日の天気は悪く、時期はちょうど今時期と同じ冬。部屋はとても暗かった。
 節電は仕方が無い。そういう決まりだから。でもコロナのせいで黙食で、しかもそもそも仲のよろしくない部署だった。そこが初めての部署だったからわからなかったけれど、他の部署も経験した今はわかる。黙食だろうが部屋が暗かろうが、周りとコミュニケーションはとれる。身振り手振り、目配せ、うなずき。わたしはそんなことでもいいから、焼き肉弁当美味しいねって周りに伝えながら食べたかった。
 顔を上げているのは目の前の画面に映る私だけ。みんな弁当に顔を突っ込むようにして食べ、早々に寝始めるかスマホを弄っていた。
 わたしも諦めて弁当を食べ終え、インスタを見てちょっと寝た。

 幼なじみの楽しそうな報告をみて、ぶわっと目の前にあのときの暗さが広がった。あー、わたしかなり実は嫌だったんだなぁと今更に実感する。
 嫌なことの渦中にいると、嫌だと思ってしまうと辛くなっちゃうからずっと「嫌」から目を背けていた。結果カラダに症状が出るようになったのだけれども。
 ようやっとあのときの「嫌」が発掘されたから、しげしげと見つめる。ゴツゴツと大きい、灰色と紫と緑と黒のダークマター。かなり当時のままである。
 息を吸って、大きく振りかぶる。
「めちゃくちゃ嫌だった!!」
 ブンと勢いつけて遠くまで投げる。遠く遠く、有明海まで飛んでいけ。

 これからはできるだけ、目の前にある「嫌」はその場で拾って小さいうちに放り投げたい。そのへんの川に浄化してもらえるぐらいのサイズで。海じゃなくて川。有明海じゃなくて中島川。

 こんど自分のために焼き肉弁当を買いに行こう。いっそひとりで清々しく、青空の下で食べてやらぁ。

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