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Alaska Quest

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アラスカ無人地帯での1ヶ月キャンプ
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#冒険家

帰るんだ

 北極圏を出る。1ヶ月前に来た道を、今度は出発した街までまた自転車で引き返す。1日分の食糧を残して目指すのは400km先。途中で食糧を補給できる場所はない。小川が何ヶ所かあったので、水は確保できる。

 これは、おれが当時、若さゆえにどんなに愚かであったのかを綴ることで、同じ思いをしないよう今後の教訓として記すもの、自分への戒め、つまり反省文である。

 それにしても来た道を帰るのは楽しくない。も

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火を焚き、水が沸く

火を焚き、水が沸く

 無人地帯に入ってからもう2週間、人と喋っていない。人の声を聞いていない。車や電車の走る音も、TVやラジオから流れる音声も、部屋の壁に掛けてある時計が刻むチクタクも。日本での生活から考えると、なかなかの異常事態である。

 うるさいと思っていたあの雑音たちは、日常を日常らしく脚色するためには、意外と必要だったのかもしれない。綺麗な音だけが聞こえる世界では、もはや綺麗な音はただの音で、雑音がなければ

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世界にもし屋根が無かったら

食糧が尽きた。人間が住む町まであと約200kmか。このボロい自転車で最低2日はかかるな。2日か...2日くらい飯無しで行けるか。なんか70年断食しているインド人がいるとか聞いたことあるし。水は川の水を飲めばいい。
 意外とおれの脳は、こういう命に関わるようなピンチの時は冷静でいてくれるらしい。
 いや待て、それよりどうしてこうなった。

 アラスカの大地に足をつけたのは約1ヶ月前の9月初旬。夏の終

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