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林住期もしくはKのこと

 古い友人のKが、SNSで仕事をリタイアしたらしいことを伝えてきた(イニシャル表記にするとKになる友人が多いことに改めて気付く)。報告には、充実した林住期(リンジュウキ)を過ごしたいとして、それを構成する活動要素が明確に示されている。元々山男だったKは、仕事でもきちんと成果を出しながら、忙しい中でもプライベートを大切にして、自然をフィールドに着々とネットワークを築いてきた感がある。
 林住期というのは、人生を4つに区切って捉える四住期(シジュウキ)という古代インドの考え方で、学生期(ガクショウキ)⇒家住期(カジュウキ)⇒林住期⇒遊行期(ユギョウキ)と進む人生の第三段階、林の中で修行や瞑想をしながら自らの内面的な成熟を目指す時期だ。年齢的には50代から75歳位を指すらしい。五木寛之さんが本を出す以前、いつ何で四住期について読んだか忘れてしまったけれど、歳を取ったら林の中に入って、最後は巡礼に出るという考え方がとても魅力的に思えたことを覚えている。
 Kとは予備校の寮で出会った。部屋は別だったけれど、私と同室のHが教室ではKと席が隣りだった。ちょっとクニャっとした歩き方をする男で、Kの部屋のカセットで初めて矢野顕子の「いもむしごろごろ」を聴いた。変な歌だなと思った。大学は別になったものの付き合いは続いて、夏休みの山小屋バイトを紹介してくれたのはKだった。就職活動で要領を得ない私に「あそこで面接受けられるよ」と教えてくれたのもKで、結局同じ会社に入った。数年で転職してしまった私とは違い、Kは複数の新規事業の立ち上げに関わり、そこでサラリーマン人生を全うした。震災の時、ネットで私の安否確認をしてくれたのもKだった。
 山の上で飲むチャイの美味しさとか居心地のいいジャズ屋とか、Kが教えてくれたことはたくさんあるけれど、その最たるものは自分で考えて自分の責任で行動するという姿勢だったと思っている。自分もそうしてきたつもりだが、どうも私の場合はなんちゃって感が拭いきれない。もう山小屋も閉まった晩秋の尾瀬で、みんなが来た道を引き返す中、リュックを背負って一人そのまま木道を歩いていったKの後ろ姿を覚えている。そのうち飲みながらゆっくりやろうとメッセージを送った。話題は勿論、お互いの林住期について?
 

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