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風
風と言えば花鳥風月の一角、風雅といい風流といい風景とも言う。花鳥月は見える一方、目には見えない風を自然や景色の代表のように扱うのも考えてみれば不思議な話だ。それ程までに、風が私たちの心を強く魅了していることの証しなのかもしれない。十数年前、風の強い日に散歩をしていたら、小高い土手の上に烏が並び、次々と風に向かって飛び立っては煽られて後退し、又風に向かって…ということを繰り返していた。暫くすると土手に戻って休み、別の烏が飛び立っていく様はまさにサーフィンを連想させるもので、あの時烏たちは間違いなく風乗りを楽しんでいたに違いない。スマホを持っていなかったのが返す返す残念だ。
ある朝出勤すると、年下の同僚が「これって本人ですか?」と言って新聞の訃報欄を見せてきた。氏名、年齢、住所、残念ながらそれは確かにかつて一緒に働き遊んだWのものだった。信じられなかった。一度体調を崩したことは聞いていたが、その後回復して、数年前には元気な姿を事務所にも見せていたからだ。大きなリストラがあったとき、一番年上だからと皆に席を譲った男だった。宴会ではいつも自ら出し物を企画し、みんなを笑いの渦に巻き込んだ。競馬の予想は独特で、ほとんど毎週ㇲっていたが時々大穴を的中させた。ドライバーショットは大抵どフックだったが、偶に目の覚めるようなビッグドライブを見せた。九州場所が終わった後の福岡旅行で、二日市温泉に浸かってから二人で食べた鯖の鮨は旨かったなあ。ジョージ秋山の浮浪雲が好きで、飄々と自由に生きた風のような男だった。遺影は辛うじて面影が確認出来る程に痩せていたが、会場の入り口に飾られていたお孫さんを抱く写真に救われたお通夜だった。
風と聞いて思い出す歌は何だろう?「かぐや姫」が解散した後、正やんはクボやんと「風」を結成して5枚のアルバムを残した。世界的に有名なのは、やはりボブ・ディランの「風に吹かれて」だろうか?はっぴいえんどなら「風をあつめて」だし、エルレガーデンには「風の日」があって、何より今「風」といったら藤井風なのかもしれない。でも、やっぱり今日の気分ははしだのりひことシューベルツの「風」かな。
何かを求めて 振り返っても
そこにはただ 風が吹いているだけ…