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カセットで聴きたい

 そのカセットはU君から貰ったものだ。が、いつ、どういうシチュエーションで貰ったのかは全く覚えていない。シー・レヴェルの曲が90分テープにぎっしり詰まっている。シー・レヴェルはオールマン・ブラザーズ・バンドが解散したときそのリズム隊が結成したバンドだ(とU君が教えてくれた)。無茶苦茶大好きというまでではないけれど、何故か夏の終わりに聴きたくなる。単にその頃に聴き込んだ記憶がそうさせているだけかもしれないが、まだたっぷり熱が残った季節の中で、疾走するサックスのあとに流れてくるピアノのリフが夏の終わりの海の光や波の煌めきをイメージさせて、ギターの音にも何となく気だるさが漂っている。いつもはもう少し早い時期に聴くのだけれど、今頃思い出したことが今年の暑さを物語っているのかもしれない。
 U君はこれまでにも私のnoteに何度か登場している最初に勤めた会社の同期だ。とてもシャイでとてもセンスが良い。学生の頃は映画を撮っていたらしい。私より先に会社を辞めて音楽関係の会社に転職した。50過ぎに独立して、今は主にある有名アーティストのライブを企画している。コロナの間は大変だったと思うけど、最近はコンスタントにライブの情報がfacebookにあがるようになった。娘の進学相談にのってもらったのも、ギルバート・オサリバンのコンサートに付き合ってもらったのもU君だ。そして多分、U君と私は、共通の友人とある女性の記憶を共有している。
 あれ、何の話だったっけ?ああそうそう、カセットだ。お陰様で車が変わって、今度の車ではUSBメモリに入れたデータとスマホのyoutubeをブルートゥースで聴いている。以前ipodで聴いていたちょっと古めの曲も、youtubeのアルゴリズムが選びだす曲もどちらも新鮮だ。まだ夏を思わせる暑さが残る9月の夕方、ふとシー・レヴェルが聴きたくなってyoutubeを検索してみたらあっけなく見つかった。職場の駐車場から聴きながら帰る。音もクリアで快適だ。なのにである、これは元々カセットで聴いていたんだよなあということを思い出して、無性にカセットで聴きたくなった。Perfect Days か?最近は若い人にもカセットが人気みたいだけど、やっぱりレコードからカセットに録音したアナログ×アナログの2乗音には特有の懐かしさがある。車にラジカセでも持ち込むか。そう言えば昔みんなで海に行ったとき、Kが小さなラジカセを持って海辺を歩く姿がかっこよかったな。あれには何のカセットが入っていたんだっけ?


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