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(更に別の)Kのこと

 前回のnoteの最後にラジカセを持って登場したKは、以前紹介したKともその後に紹介した別のKとも違う更に別のKだ。このKとも、最初に入った会社で出会った。細身で黙っているとちょっと強面だが、その分破顔すると印象が一変する。日本海の近くで育ったKは泳ぎが達者で、高校の頃はラグビーをやっていたらしい。友達とJAZZ屋にも入り浸っていたようだが、ちゃんと理系の名門校を卒業して、何故かどちらかというと文系っぽい仕事をずっとしている。最初の会社を辞めたのは私とどっちが先だったんだろう?
 まだ独身だった頃、大晦日にみんなで集まった時にKがかわいい彼女を連れてきたのは羨ましかったなあ。その彼女と程なく結婚して、その後で結婚した私とは電車一本で行き来できるようになった。二人がうちに遊びに来てくれたこともあったし、互いに娘が産まれてから家族連れでいっしょに旅行に行ったこともある。ああそうだ、このnoteではピーター・バラカンごっこの時に登場していたんだった。結婚する時ラジオでKからのお祝いリクエストが読まれた娘さんは今ロンドンにいて、この間お子さんが産まれたらしい。そうか、Kはもうおじいちゃんなんだな。
 Kとの記憶は飲んでいる場面が多い。これも昔みんなで新宿のゲイバーに行った時は、更に別のKが一人でモテていたのだが、小瓶のビールをラッパ飲みしながら踊るKはすこぶる楽しそうだった。当時、六本木の防衛庁近くにジョージという店があって、入り口に置いてあるジュークボックスのA-1はオーティス・レディングの The Dock of the Bay なんだとKは言っていたっけ。
 私が地方に引っ越してからは、時々出張で近くに来た時に連絡をくれる。二人で地酒を飲み比べながら近況を語り合う時間は至福だ。別に普段話し相手に困っている訳でもないけど、自分でも気付かないうちに溜まっているストレスもあるのかもしれない。いつも自然体で、その場その時をゆったり愉しむ術を身につけたKにはついいろいろ話してしまって、その話が相手に沁みていくのが分かるような心地よさをKは持っている。昨年コロナ明けで久しぶりの集まりに上京した時もKは遅くまで付き合ってくれて、最後に二人で新宿のJAZZ屋に行った。独身の頃よく行っていた店で、様子は大分変ったけれど懐かしかったなあ。あの日Kがお土産にくれたブラッド・メルドーのビートルズが、結局私にとっての昨年No.1CDになった。
 


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