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4 It's too late

 「踊ろうか」と誘ってくれたのは彼女の方だった。
それは彼女の結婚式の二次会で、会は既にもういい加減訳のわからないカラオケ大会に突入しており、誰かがスローな曲を歌い出して、会場がにわかにチークタイムになった頃。照明が絞られたフロアで揺れながら、私たちは、数分の間に一体何を話したのだろう?覚えているのは、背中に回した腕から伝わってきた「こんなに華奢だったのか」という驚きのような感慨…。

 彼女が結婚するらしいというニュースはショックだった。頭をハンマーでガ~ンと殴られたような感じ。えっ!ウソっ!マジ?どうして?彼女がそんなに早く結婚するなんて、およそ考えもしなかった。それから相手の名前を聞いて更にびっくり。ええっ!ほんと?なんで?ちょっと違うんじゃない?大きなお世話だ。

 彼女は、決して美人というのではないけれど、とてもさっぱりとした性格で、頭もよかった。でもそれを鼻にはかけず、いっしょにいると、時折思いがけないかわいい表情を見せた。
 彼女の意外?な人気に驚いたことがある。何かの飲み会で、彼女と男4人が残った。だいぶ酔いが回っていたのだろう、その内の一人が突然彼女に告白を始めた。おいおい、それはこういう所でやることじゃないだろうと思っていたら、別の一人が「実は俺も」みたいな話になって…。タクシー代を持たない私は終電で席を立ったが、結局彼女が結婚したのは、多分その後、懸命にその場を取り成したであろうもう一人だった。

 彼女と踊っている時、「ファンダンゴ」みたいだなと思った。映画の終盤で、主人公が結婚する昔の恋人とパーティーで踊るのだ。私は正式に?彼女と付き合っていた訳でもないし、勿論ケビン・コスナ―になれるはずもないのだけれど。劇中には’70年代の名曲が数多く流れていて、その一つとして使われていた It's too late を聴く度に、私は「そうだよなあ」と自分の愚かさを呪った。

 数年後、彼女から返ってきた私の結婚パーティーへの出欠ハガキには、大きく一言「バカもの!」と書かれていた。有り難かった。

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