#03' 月沈む('23.4.2)
夜中に、西に回った上弦過ぎの月あかりで目が覚めた。スマホを見ると午前2時、昼間に桜を見過ぎたのかもしれない。眠れずにぼおっとしていると、この時間にも結構列車が走っていることに気付かされる。多分貨物列車だろう。小学校で習った唱歌を思い出す。
いつもいつも 通る夜汽車
静かな 響き聞けば
遠い町を 思い出す
5年か6年の教科書に載っていたその歌を、村の分校で1年か2年の時に習った。合唱の下のパートを覚えている。ハモるのが得意だった。
遠い町を思い出すと言えば、仕事で静岡にいた時、国道246号線(ニイヨンロク)が静岡県まで続いていることを初めて知った。246と言えば渋谷や青山のイメージで、東京にいた頃、たまに渋谷から三茶に住んでいた彼女のアパートにタクシーで向かうときに通った。遠距離だった当時、この道を辿っていけばあそこに着けるのかあと思ってその道を眺めた。後年、久しぶりに三茶を訪れた際、記憶を頼りにアパートを探してみたら、建物はあったものの人は住んでいないようで、白っぽい抜け殻みたいな部屋は、そこに生活があったことが不思議に思えるくらいひどく小さく見えた。
小さく見えたと言えば、学生の頃にバイトをしていた山小屋もそうだった。平屋だったけれど、キャンプする人用の水場もあったし、屋根裏には宿泊者や私たちの寝る場所もあった。少なくても常時7,8人は生活していたその小屋を、やはり後年訪ねてみると、あれ?っという程小さかった。子供の頃は大きく見えたというなら分からないでもないけれど、大人になってからの記憶なのに、この大きな齟齬は一体どこからくるのだろう?まさか、記憶にはずっと微弱なスモールライトが当たっているとか?
取り留めのない考えが、ぼんやりした頭の中で浮かんでは消えてゆく。時は流れていく。思いも流れていく。もう少しすれば、新聞配達のバイクの音が聞こえてくるはずだ。月は、どうやら既に沈んだようだ。