大きな空には今日も空しかなかった
ふと子供の頃を思い出す。
季節は秋。
確か6歳の頃だったと思う。
夕暮れ時に近所でおじいちゃんと魚釣りをしていた。
空は深海の様な青さに包まれていた。
それはなんとなく優しい色に見えた。
僕は多分この瞬間をこの先も覚えているんだろうなと思った。
仕事帰りの母の車が見える。
僕らは手を振る。
母と目が合う。
母は車の窓を開け「遅くならないようにね」と微笑む。
すると車を引き返し10分後に戻ってくるとコンビニで買ってきた肉まんを得意げに手渡してくる。
空はいつも落ち着いていて
季節が違っても、思い出が違っても、考えが違っても
関係ないと僕に伝えてくる。
じゃないと人は不安になってしまうから。
でも、考えたって結局はいつも同じところに辿り着く。
だから今を疑わない。
いま思ったことが全てなんだと思う。
そして今は25歳。5月。
どこからともなくジージーと鳴く虫が初夏の訪れを教えてくれる。
あの時と同じ色をした空は今も優しく見える
「大人になったのか。」と風が吹く。
「大丈夫。」風鈴は歌う。
だから僕はきっと大丈夫。