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小説詩集「宇宙の糸玉」

「僕はぼくの道をゆくよ」

とか言われた時、私にはわたしの道があるわけだし、って背中合わせに立って一歩ずつ遠ざかった。その背中合わせの感触が心にとどまってて困る。

「オケの練習だよ」

て言われて集まって息をあわして弾き始めたけれど、楽譜からFの音が消えてた。

そうなんだ、一歩ずつ遠ざかることが私たちを遠い宇宙のはてまでも引き離すんだ、て愕然とした。もし宇宙が球体構造だったとしても、私たちはもう会うことのない知らないもの同士なんだ、とか驚いた。

「今頃気づいたの、君らしいね」

て笑ってくれることももうない。

「しっかりするんだ」

みたいにコンマスが視線をおくってくるから、私は気をとりなおした。

Hの音は青い色、Fには影があるよねとか、2人で鍵盤をひとつひとつ鳴らしていったのを思い出す。

「いいね」

とか、

「気に入ったよ」

とかいう彼の二つの言葉が私の世界を作ってた。

今思うけど、あのころだって彼はどこかに消えそうだった。宇宙人みたいにどこかへ帰ってしまう、みたいな気がしてた。

「なので、」

「なので?」

なので、彼は心を残さず一歩ずつ離れてく。

「そうじゃなく、ジュピターの楽譜をよく見ろよ」

とかコンマスはいきりたっているけど、彼は宇宙のことを知らなすぎる。

「彼はね、」

「彼?」

「彼は、」

地球という母体を離れて宇宙へ遠ざかるんだよ。彼の使命に従ってこの地球を離れていくんだよ。私は追わないよ、だって私の道があるから。使命が組み込まれたロボみたいに私たちは前進するんだ。

「ただ、」

「ただ?」

ただ、まるで夜、みたいな宇宙をめぐる彼の存在が私に宇宙をめぐらせるの。グルグルしてるうちに、私たちの軌跡はね、きっと糸玉みたいにまあるくなって宇宙を包むんだと思う。これが私たちの一生なんだね、みたいに。

「Fの音が消えちゃったの」

とか、ぽつりと言うけれど、それは団員の音にかき消されるわけで、私はしかたなく楽譜に目をもどした。

「この楽譜にもさ、」

「この楽譜にも?」

「慣れてくるよ」

とかコンマスが声をかけてくるから、そうですよね、みたいにまた弾き始める。いいね、気に入ったよ、みたいな声が静かな宇宙のかなたでこだまするのを聞きながら。

おわり

❄️宇宙はタトゥーと違うけど、糸玉はことだまに似てなくもなくもない、みたいな安直な話ではない、が今回の売りです。え?支離滅裂は夏の疲れのせい、的暗い話になったのはやはり夏バテのせいでしよか。残暑に負けない心を保つ、今はそれだけです。あ、あと食べ好きに気をつけます。また書きます。ろば



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