小説詩集「僕と君のかくれんぼ」
僕が君を見つけたのは、カフェの自動ドアの前だった。
困ったみたいに佇んで、
「センサーがさ、反応してくれないの」
とか言うので、僕は前に進み出て開けてあげたのたのだった。
「あ、あいた」
って君はよろこんで、僕のあとにつづいた。
これで、塾に遅刻するのは決定的になった。
ラテを注文して、振り返ったら君が席で手をふった。
「やっと飲み物にありつける」
とか君はよろこんだけれど、次の瞬間には、電池切れみたいに塞ぎ込んだ。
「中学のころのね、担任のところへ訪ねて行ったんだよ」
君は唐突に話し出す。
「卒業した学校に?」
「うん、何かあったら相談しにこい、とか言ってくれてたから」
「相談できた?」
大笑いして首をふる君。
「忙しそうだったし、」
どのみち、誰かに相談したって答えなんかでないわけだから、挨拶しただけで帰ってきた。
「誰かに、」
「誰かに?」
だれかに、頼ってみたかっただけなの。
「あ、携帯なってるよ、」
て君が言うので見たらそれは僕の母親からで、分かってる今から塾にはいくよ、て思ってバックに押し込んだ。君はゲームしながら手をふった。
僕は夕闇に向かってかけだしたけれど、息がくるしくなって、やがて立ってることさえできなくなって、よろよろと灰色の歩道に倒れこんでしまった。
「あ、見つけた、」
でも、何してるの?とか訝る君の顔。
「授業に出たってさ、やつらに勝てっこないよ、だから、」
「だから?」
苦しくなって、息ができなくなったんだ。
「してるよ、息は」
て僕を眺める君。
でも本当のことなんだ。授業に出てるのは代理ロボがほとんどで、リッチな家庭のヤツらにかなうわけないんだ。
「確定なのそれ?」
って君は覗き込むけど、負けっぱなしなんだよずっと、とか振り切って再び走り出す。絶望で気管支がアルミ管みたいに乾いてきて、さまよう胸が重さをました。
やっとのこと塾にたどりついて、重い足取りでカウンターの前を通ったら担任の白ロボに呼び止められた。
「遅刻だよ、今日も」
だって先生、代理ロボたちが速攻答える渦のなかで、僕はただ巻き貝のみたいに聞き耳立ててるだけなんです。
「ねえまさか、代理ロボたちに勝てないのは、あなたが人間だから、だとか思ってない?」
担任の白ロボが真顔で僕に問う。というと?、みたいにロボ担任を僕は見る。
「あなたたちは自分のために勉強してるよね」
ふつうじゃないですか、みたいに僕は頷く。
「褒められるとうれしくて」
そうかもですね、みたいに頷く。
「笑われたくなくって、泣くよね」
そうなりますね、みたいに頷く。
「代理ロボたちはね、」
利他のこころで答えをはじき出すのよ。
「利他?」
あなたたちって、きびはあるけれど心がないのよ、みたいに責め立てて、担任は絶望するみたいに頭をカクリとして動かなくなった。
「充電、ぎれだな、」
って思ったら、ガラス張りの向こう側で、自動ドアあけて、とか君が叫んでる。
僕はドアのセンサーに手をかざし、開きはじめたそのドアから君の手を掴んだ。
「いくぞ、今なら担任ロボが感知しない、」
遅れていったって、記録に残らない。
「みーつけた」
とか呑気に言ってるから、君の腕を引っ張って僕はエレベーターに飛び乗った。
あのさ、とりあえずさ君のドアを開けるために前へ進んでいくよ。
僕らは身をひそめながら、滑り込むみたいに教室に潜りこんだ。
おわり
❄️やる気満々、とか言いながらゲームにとりつかれるみたいに、さー書くぞ的にパソコン開いて動画に終わるみたいな日々がつづきます。冬ですね。
その絶望の淵から立ち上がり、投稿しましたみたいなやっと感が物悲しい年末です。やる気はあるんだけれど、な、ほんと不思議な季節です。また書きます。
ろば
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