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短篇「君を見つけてしまった」3/8
⁑ 3 ⁑
薄いウイスキーを飲みながらカウンターで皿洗いをする彼女を見ていた。
「僕ら同じ学校の学生だよね」
頃合いを見て話しかけてみた。
「そうなの?知らなかった。というか人の顔おぼえられなくって私、と言うか人の顔あんまり見てないし」
そう言いながら彼女は僕の目を見ていた。
「専攻は?」
「にんぎょう科学よ」
「人間科学じゃなくって?」
「人形科学よ、人間が人間を操る動機、あるいは操られる仕組み、あるいは人形という悪夢と芸術性、それを勉強してるの」
「そんな分野が、あるんだ」
「あるわよ、人文学部の中に」
彼女は、僕に問われるたび、コップを洗う手をとめてスポンジを宙に浮かせながら答えた。
もしかしたら同時に何かをすることが苦手なのかもしれない。だから質問攻めにするのはやめてグラスを口に運んでは彼女を盗み見た。
再生回数の多い動画を見ているようで楽しかった。
「あの、もうすぐ閉店なんですけれど」
彼女の気配を感じたと思ったら、そう言われた。
「じゃあ、最初で最後の仕事が終わるね」
「私のことじゃなくって、あなたのことよ」
「なるほど、退散するよ。君も仕事が終わるなら送ってくよ」
彼女は爪をわずかにかむようなポーズをとってしばらく考えていたけど、「私自転車なんだけれど、仕方ないわね」と言った。
店の前で待っていると、全財産が入ってるんじゃないかってほどの大きなバックを担いで彼女が出てきた。どこか一人で生きてますという気概が漂っている。
通りに出てから「ドーナッツとコーヒーはどう?」と誘ってみたら、彼女はあんがい簡単に応じてくれた。もしかしたら、ちょうど食べたかったのかもしれない。
つづく
⁂クリスマス🎄の話題がちらほら聞こえてくる日常がどんどん、年末に向かって疾走してる。ってことで、クリスマスイブに完結予定です。