小説詩集「サボテンダンスないと」
カタカタとコーヒーカップがなって、その不意みたいなのに驚きながら僕の予感は走った。
家を飛び出して彼女の家に向かったけれど、もう一度地響きがした。雪みたいに灰が肩に降り注いで、なのに僕はただ走るしかなかった。確かなのは予感だけだった。
合鍵でドアを開けた。開けたけれど、部屋は荒らされたみたいにぐちゃぐちゃで、後ずさった。
「たすけて、」
とか聞こえてきたわけで、僕は我にかえった。ソファーとテーブルを急いでどかすと、彼女が大切にしてたサボテンが押し潰されて泣いていた。
「彼女は?」
みたいに聞いたけど、サボテンはたすけて、の一点張りだった。鉢もみつからないし、サボテンの根っこも千切れていて、たすけられるかな、とも思った。
「たすけて、」
彼女の話し方をまねるみたいにサボテンは繰り返す。僕は仕方なく、散乱してる楽譜を拾い上げてサボテンをつつんだ。
「で、彼女は?」
とか急きたてたけど、いないよ、て答えが返ってきただけだった。
サボテンを抱えて彼女のアパートを出ると、町中が砂嵐みたいにけむってた。山の噴火、隕石の落下、異星人の襲撃、思いつくままに考えを巡らせたけど、原因には辿り着けなかった。
「ほら、もう大丈夫だよ」
って言ってあげたのに、サボテンはズケズケと僕の部屋を眺めまわして、ここは大丈夫なんだ、って不満そうにつぶやいた。
「一体どこにいるんだ彼女は」
僕は携帯を探る。
「もう、連絡は入らないとおもうよ」
みたいにサボテンはつぶやくわけで、何かを知っているに違いない。
「言えよ、知ってる事があるんだろ」
サボテンは何も言わずに僕の携帯をじっとみていて動かない。何かをまっているみたいだった。
「んじゃあ言うよ、」
彼女はね、55分発のロケットで冥王星まで旅立ったんだよ。コードナンバーもかえてさ、みんなの知らない誰かになって生きるんだ、って消えたんだよ。
「じゃあ、さっきのガタガタは?」
発射台の振動だよ、みたいにそっけないサボテン。
「なんでだよ、」
ずっと一緒にいたのに。僕は僕なりに当惑して答えを探す。
「彼女の外側で生きてたんじゃない?」
「外側?」
「だって彼女はずっと内側で生きているわけだから」
「内側で?」
「うん、ずっとひとりでね、」
道ばたにさ、散ってひとところに集められた落ち葉に聞いてごらんよ、君ってモミジだろ?みたいに、そうしたら。
「そうしたら?」
そうしたら、みんな言うと思うよ、んなこと知らないよって、ただ自分の内側で生きてきただけなんだって。
「なので、」
「なので?」
なので、今夜は私と踊り明かすしかないんだよ。
「一晩中か?」
「ひとばんじゅう、んで、」
あしたも、あさっても。
僕は抱き上げて、楽譜にくるまったままのサボテンと踊り始めた。棘の刺さったみたいなサボテンはどこか遠くにいるみたいに静かだった。
おわり
秋がかってに深まる気配と、宙ぶらりんな気持ちがすれ違う、みたいな風物詩的お話です。忙しさが時を進ませるけど、悲しみがそこに留まる、的秋のマジックです。だから風にのって高い空をかけていくしかないんだな、みたいな物思いなろばです。また書きます。ろば
秋によみたいKindle Unlimitedだよ