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短編小説「パパの恋人と赤い屋根の家」6/6

◇短編小説をこま切れに…これがその6回目です。短篇を分ける?伝わるかしら?でもそれが青島ろばの純文気分です。その短編を「異界の標本」としてまとめていきます。

台所にたってミルクスープとラディッシュサラダをととのえた。弟がトースターからこんがりと焼けたパンを取り出してサラダの横にそえる。
窓から見下ろすと下のマンションにパパの恋人が見えます。超能力は彼女にも伝染したようだ。
私にはこの頃、ミサちゃん式にドラマのワンシーンを思い浮かべることがよくあるのだけれど、これも伝染したことだ。
親の無慈悲に遠ざかってゆく子供。好きだった人を離れてゆく恋人。なぜ親は無慈悲だったのかしら。なぜ恋人は一人になるのかしら。
もしかしたら、昨日の私が仕事でメールを送った後に、メール送りましたからお偉いあの方にお伝えください、と一報入れるのを忘れたように、ほんのひと手間が、無情にも時を失ったまま届けられなかったからなのかもしれなません。

そうです、今日も昨日もおとといも私の中は欠けたところが満載だ。それは私仕様というものですが、それを繕おうとするのがまた私の逃れることの出来ない私仕様なのだ。
だから私はその仕様を受け入れてそのデバイスとして生きることに専念しよう。他者の見解は付きまとうけど、生きているからには誰だって忍耐はつきものだ。

赤い屋根の周りを木々がつつむように紅葉しはじめると、パパの恋人は恋人ではなくなった。正式に奥さんになったのです。
私と弟はそろそろ頃合い、と独立すると申しでたけれど、パパの奥さんはそれをゆるさない。「なぜかしら?」これは、私と弟の解けない謎だ。もしかしたら、弟の方はもう解けているのかも。

「恥はね、自分の中に永遠に刻み込まれるけれど、自分自身は時の中でほろぶのよ。時の暗闇の中にね」
ときどき、ミサちゃんの声が聞こえる。あまりにも核心に触れていてパワーを感じる。
私と弟は、なぜかパパとパパの元恋人も、下のマンションと赤い屋根の家を、こちら側、あちら側といったりきたりしている。
「結局は、時に身をまかせるしかないのよ」と言う従妹の声が、今またはっきりと聞こえるたのは私だけなのでしょうか。

おわり


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