小説詩集「消えちゃうまち」
川の浅瀬のとび石をポンポンと進んだ。
「だって今朝、校庭が見える歩道でね、」
一歩も進めない子供を見たんだよ、って彼に言い訳するみたいに言った。
「一歩もか?」
「うん、一歩も」
そこから先は何があっても進めん感じだった。
「何があっても?」
「そ、けどね、」
「けど?」
「それ以外のところへはどこへでも行ける感じだった」
「なるほど」
「で、その子は踵を返してさ、見守るママに、」
「見守るママに」
「どーん、」
って突進したの。そしたら吸着するみたくママの胸に張り付いて、そのまま吸い込まれるみたいに消えてった。マシュマロが溶けあうみたいだった。
私はにっこりして、さらにとび石を一つ飛び越えた。
「バス停に着いたところでさ、」
「まだ、今朝の話?」
「そ、いつも待ってる高校生がいなかった」
「風邪でもひいて休んだんだろ?」
いい加減な推測を彼は言う。
「んなわけないよ、」
あの子はね、いつだって携帯の単語帳みてたんだよ。中間テストのこの時期に休むなんてありえない。
「そこまで確信してるのか?」
「だけど、そもそもあの子はそこにいなかった、」
制服の上に着たカーディガンが揺れてはいたけれど、心の中は無風だった。あの子の横にいつも立ってそう感じてたの。
「じゅあ、その高校生は?」
「制服の外に消えたんだよ、」
「まさか、」
「本当だよ、」
そうしてこの町で、ひとり、またひとりって泡がはじけるみたいに消えてるの。
「そういえば、さっき流したLINEにもとんと既読がつかんな、とか思ってた」
「んでしょ、」
とか私は言って、とび石をまた一つ渡る。思い切って二つ飛びも試みる。照れるけどその勢いが大切なわけで、ここいらでコケそうになるのも一興かしらん、なんて姑息なことを思いつつ、さらに一歩、で、彼にダイブした。私たちは町から消えた。
おわり
❄️どこに向かって、泣きながら進んでいるのでしょうか、的悲しい物語を書きました?え、そうだったの?うーん、町を歩いているのは私かしらん、町が私の周りを回っているのかしらん、ぐらい、わかりません。確かなのは、季節を見つめてること、季節に見つめられてること、ぐらいでしょうか。え?また書きます。ろば
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