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(小説)宇宙ステーション・救世主編(十二・三)

(十二・三)パンデミック
 月の末日三十日、お化け屋敷で雪と関係を持った霧下を始めとする男共に衝撃が走る。ゴロ助が桜毒を発症しないのを好い事に、月の中旬雪と関係を持った最初の男が、桜毒を発症し死去したのである。
 さあ、これは大変、一大事とばかりに、闇の組織の日本支部はてんやわんやの大騒動。身に覚えのある者はうろたえ恐怖するのみ。検査に行ったところで、もし桜毒の陽性であればその時点でアウトだし、陰性だとしても体内に時限爆弾を抱えているようなものであるから、気休めにもならない。従って座して死を待つのみの心境である。最早お化け屋敷を訪れ、雪を弄んでやろうなどという余裕の強者もいない。よってお化け屋敷はしーんと不気味な程の静寂と沈黙に包まれる。
 流石は世界を裏で操る組織だけあって、日本に於いても重要なる各方面、各分野、例えば政治、経済、マスコミ、芸能スポーツ、科学、医学、芸術界等々へと、組織の人材が万遍なく配置されている。で十二月に入るや、その日本の重鎮たちがなぜかころころ死んでゆくから、どういうことだ、今この国で一体何が起こっているのだと、日本国中が戦々恐々。
 ところが組織に操られたるマスコミが、真相を伝えることは有り得ない。死因が桜毒であることを隠蔽し、新種のウィルスが死因であると、日本はおろか世界中に虚偽の報道を行うのである。突如日本に於いて新種のウィルスが発生し、国内で猛威を振るっているのだと。
 忽ち日本国内は騒然、国民は混乱と恐怖の渦中に置かれパニック状態に陥る。新種のウィルスって何だ、鳥インフルエンザかスペイン風邪か。調子に乗ったマスコミは更に煽り立てる、今日誰々が死んだ、矢張り新種のウィルスが原因であると。国際社会に於いても大問題に発展、急遽日本からの出国、日本への入国は勿論、日本製品の輸出にストップが掛かる。日本政府は直ちに国連に救済を要請、それを受けたWHOは厳重な警戒の下、日本に調査団を派遣。ところが国連、WHOすらも実質闇の組織の支配下にあるからマスコミ同様真実を隠蔽、原因は正しく新種のウィルスであり、これを女狐インフルエンザと命名する。更にこれは世界中に脅威を与えるものであると断定し、ここにパンデミックを宣言するに至るのである。
 WHOは対策として多国籍製薬会社が開発したワクチンを用いた予防接種を、海外への汚染拡大防止という名目のもとに日本国民に対し強制的に実施することとする。加えてこの予防接種を世界中でも実施するよう、各国政府に要請する。とまあ忽ち世界的な大騒動へと発展するのである。
 その頃お化け屋敷の雪は、どうしていたか。世の中が世紀末の如き騒動になっているとも露知らず、世話係の若い衆が定期的に置いてゆく食料で何とか飢えを凌ぐ日々。後は傷付いた体を癒す為横になり眠り続ける、何も知らざる眠り姫状態である。

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