「ねえ貴方、獣の匂いがするわね」 女性が気軽に入れると評判のお洒落なブックカフェで、見ず知らずの人間にそう話しかけられた尾柴千帆(おしばちほ)は、その身と表情を強張らせた。 テーブルごとに置かれた一輪挿しと、淡い色調の内装のあちこちに、回転式の書架を生やした春の森のようなカフェ。 美味しいケーキと上質な読書が楽しめるとテレビ番組に取り上げられてから、急に混み始めた。一介の女子高生である千帆も、客の一人だ。 店内は、珈琲の香ばしい湯気と、書籍の乾いた紙とインクの香