【講談風読み物】令和じゃこ天騒動
頃は令和五年神無月は二十三日、東北出羽国秋田県知事が地元の講演会で申したるに、「秋田ほどうまいものがある所はない」との地元愛溢れる発言あり。さすがは名族・佐竹家二十一代の当主であると聴衆みな納得の流れと思いきや、その先大いに問題あり。すなわち「四国なんかもう大変です」「食べ物は粗末で酒もまずい」「ステーキかと思って蓋を開けたらじゃこ天が出てきた貧乏くさい」「高知のどろめ、あのうまくないやつ」などと片方を上げるために片方を落とす悪手の極みの四国disを大乱発。
これを聞きたる四国の民が憤懣やるかたなきは最もなところ。SNSの場において「じゃこ天はうまいではないか」「さっとあぶって醤油を垂らせば酒の肴にあれ以上のものはなし」などと次々に反論の火の手が上がる。当の秋田の民からも「なんと失礼なことを言うのか」「秋田県人として恥ずかしい」との批判の声が山のように押し寄せて非難轟々瞬く間に天をも焦がす大炎上と相成った。
この有様に秋田県知事は会見を開き「不穏当かつ不見識、四国の方にお詫び申し上げる」と頭を垂れて謝罪を表明。嗚呼この件で秋田と四国に大いなる溝が生じた無念なりと思われたその矢先、日本全国からじゃこ天の注文が雪崩を打って殺到いたします。その中心こそが秋田の民。「知事が迷惑をかけました」と六割が秋田からの注文という誠心誠意の律儀ぶり。サッカーJ2ブラウブリッツ秋田のホーム戦会場で特別に売られたじゃこ天は次から次へと弾丸シュートの如く飛ぶように一瞬で売り切れた。
この現象に心打たれた四国の首長は名産品を知っていただく好機とばかりにむしろ秋田との誼を通じることを思い立ちます。伊予愛媛のじゃこ天、阿波徳島の徳島ラーメン、土佐の高知はゆずポン醤油、讃岐香川の小豆島特産オリーブ新漬けを携えて、愛媛県知事を筆頭に、三百里1200キロ離れた両者が四国と秋田のほぼ真ん中、都道府県のアンテナショップ立ち並ぶ東京有楽町に会します。
相対する秋田県知事と四国の知事。「本当に申し訳ない。四国の方々の寛大な気持ちに恥じ入っている次第」「あまり気にされんで下さい。お互いの宣伝ができて結果良しでございます」。持参した四国四県の名産四品に加えて秋田名物きりたんぽ鍋を加えた合計五品をご当地キャラクター五体のシールが貼られた袋に詰めて「なかよしセット」として売り出したところこれがまた電光石火の即完売。
雨降って地固まり、じゃこ食って絆深まる、これにて手打ちの一件落着。令和じゃこ天騒動の一席でございました。