行き先を決める必要はないけれど
自宅療養53日目。5:00起床。寝覚めが悪いのは気温のせいか夜の炭水化物かそれ以外か。日々飛び込んでくる様々なニュースを選別しながら、不用なことには関心を寄せないようにする。考えるべきことを考え、違う意見にも耳を傾ける。時代性や社会的な要求には敏感に。世界をどこまで身近に感じるか。
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晴れているのでリハビリのために図書館へ。もう4回目なので人波の避け方にも慣れている。杖無しでいけそうだとも思ったが、途中で何かあっても困るので、松葉杖1本で行く。
無事に返却と新しい本を借りてこられた。買おうかどうか迷っていた『わが人生の数ヶ月』(ミシェル・ウエルベック)が新刊コーナーにあったので一気にテンションが上がる。
のちに八百屋、ダイソー、ドラッグストアと回り帰宅。疲れや足の痛みも前日とは違って軽い。いよいよ治癒の最終段階に向かってきた。
とはいえ、足首の可動域はまだ足りないし、杖無しで歩く時もペンギンのように左右に揺れながらしか歩けない。去年まで一緒に暮らしていた女性が股関節に慢性的な痛みを抱えていて、季節の変わり目などは疼くらしく、今の自分と同じようにペンギンになっていた。それも懐かしい思い出だ。
ようやくダイソーでウェットティッシュが買えた。そんなどうでもいいことがらこんなに嬉しいとは。ダイソーで売っている『しっかり厚みのあるウェットティッシュ70枚入り』が使いやすさ、コスパともに最良。いつの頃からかこれじゃないと満足しなくなった。これもアディクションのひとつかもしれない。
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『ライティングの哲学』(千葉雅也・山内朋樹・読書猿・瀬下翔太)を読む。書けない悩みから始まる執筆論。ページをめくるたびに何かしらのヒントを強い共感とともにもらえる。デスクの正面に置いて、たびたび開く、というか使う一冊。この企画を考えた編集者はえらい。
様々な本を日々読んでいると、延々と段落が続くページは多々ある。それに慣れているせいか、今のブログ段落は物足りない。しかし習慣は恐ろしいもので、自分の日記でも5段くらい続くと少し長いかな、、、と思うようになった。
段落が長いと、パッとその意味が掴めない箇所が出てくる。その度に読み直しが発生する。この読み直しが理解度を深める行為なだったのだろう。
短段落の文章をサクサク読んでいると、その段落内での意味を掴んだらどんどん先に行ってしまう。前の段落との関連があっても、パッと見で次に進むスピードに深い理解は振り落とされる。
どちらがいいかというものでもないが、平易な言葉で、読みやすく、短時間で楽しめる文章は心に残らない確率が高い。その内容を味わい、吟味して、思考のきっかけになる。そんな読み方ではなく、情報として処理し、役立つ箇所だけ記憶していくような感じがする。
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『行き先を決める必要はないけれど、新しい対象と文体に挑戦してごらんなさい。』
そんな上野千鶴子の言葉に背中を押されている。今年は年初から激動だった。会社を辞めたことで古い自分を強制的に殺したのだが、新しい自分を用意してなかったから、抜け殻だけが残っていた。少しづつ抜け殻に中身を詰めている最中に怪我したものだから、一気に人生というものに興味が無くなって、どうやって消えるかばかり考えてた。
家族もなく失うものもない、今の言葉で言えば無敵の中年だ。自分の中に溜まっていると思われる何かしらに対する憎悪を、見ず知らずの人を巻き込んでショーのようにぶっ放すつもりは毛頭無いが、一歩間違えば狂ってしまう可能性はあるなと思ってた。
しかしそのきっかけである怪我というものが、再度抜け殻に新しい中身を詰めるきっかけになる。入院中にケアしてもらったり、友人や会社から心配する言葉をもらったりするという単純なこと。そんなあたりまえの事が人に栄養を与える。誰かか自分を気にかけてくれる。誰かができる範囲で助けてくれる。
痛みや無能感と闘いつつも、自分には膨大な時間がプレゼントされたのだ。その間に本を読み、映画やドラマを思う存分観て、次の日を考えずに寝た。自分をとことん甘やかしたと言っても過言ではない。
その間にいろいろ考えた。自分を紐解き、潜り、徹底的に知ろうとした。それと同時に治癒の過程をつぶさに観察して、人体の不思議に感動する。心と体を自らケアする自由を得たのである。
新しい対象と文体に挑戦すること。でも行き先までは決めなくてもいいよ、まずはね。ルサンチマン、厨二病、どうとでも呼んでくれという気分。ある種の開き直りとともに、死ぬまで悩みはついて回るのだから、悩みの過程は外に出してしまう。そう決めた。
時間をみたら、この日記を書き始めてちょうど1時間。なんて贅沢な時間だろう。なぜか今日はR.E.Mが聴きたくて、アルバム『オートマティック・フォー・ザ・ピープル』を聴いている。そのアルバムの一曲目『DRIVE』の歌い出しはこうだ。
Smack, crack, bushwhacked
Tie another one to the racks, baby
Hey kids, rock and roll
Nobody tells you where to go, baby
これを都合の良いシンクロとして、また頑張っていくしかない。
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