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一瞬で読める滑稽なお話➄セクハラおじさん

 伊藤華は、新しく入った肌着や靴下を、こうかな。あぁかな。っと思いながら陳列をしていた。小さな町の小さな雑貨屋さんだ。普段着。肌着。靴下。タオル。洗剤。シーツ。おもちゃ。等など。生活をするのに必要な物が殆ど揃っている。子育てがほんの少し落ち着いたところで、少しの時間、パートで雇ってもらっている。

 一人の小柄なガッチリした男性客が入ってくる。

「いらっしゃいませー。」
男性客は伊藤華を一瞥して、
「靴下はどこ?」
っと、聞いてくる。
華は、本格的な接客の勉強をしたことはなかったが、この小さな町では特に問題にはならない。ただ、この男性客が一瞬でセクハラおじさん。カマチョさん。である事はわかった。が、そんな事はおくびにも出さない。

「お客様、こちらです。どうぞ〜。この辺りになりますので、ごゆっくり、ご覧下さいませ。」
案内をしてその場を離れようとしたが、男性客がそれをさせない。
 「あ〜。俺ね〜。足首が太いんだよ。ズレないのがいいんだけどねぇ。何かいいのない?俺に合う靴下、見てよ。」
「靴下の丈もショート、クルーとか、何種類かあるんですが、どのあたりの丈がお好みですか?」
こんなのとか、こんなのとか、、、色々目の前に一緒懸命に差し出してくれるその女性を、男性なら誰でも守ってやりたいと思えるようなその女性を、少しいたぶってやりたいような衝動に駆られる。
「うん?ショートって何?クルーって何?」
少し体を寄せてみる。
「あんたの足首に合わせてみてよ。」
「ほっそい足首だな〜。握れそうだな。」
「ちょっと俺の足に合わせてくれる?」
「あんたの足首、ちょっとここの隣に置いてくれる?」
 これって最近よく聞くセクハラとか、カスハラにあたるのかな。ふと心配になるがやめられない。
 華はまるで気にならないように、笑顔で、
「ショートって、お客様の足首のこの辺りぐらいまでで、クルーはこの辺りぐらいまでなんです。どの辺りぐらいまでのがよろしいですか?」
ニコッ。
「私の足首では参考にならないと思いますが、こちらの靴下は、ゴムがしっかりしているって、好評なんです。」
ニコッ。
「細いですか。ありがとうございます。」
ニコッ。
「はい。どうぞ。こちらの靴下とか、アーチパワーも効いていいのかなって思います。」
ニコッ。
「こんなひょろっとした足、お客様のお隣にとんでもない。何かスポーツとかされてるんですか?すっごくしっかりとした感じの足されてて、、、。」
ニコッ。
「そうかい?まっ、若い頃は柔道してたんだけどな。今は仕事ぐらいだよ。」
「へぇー、やっぱり〜。がっちりされてる筈ですよね〜。」
「お仕事もハードなお仕事なんですか?世の中の方、助かってますよね〜。」
 
 あれれ。なんか、上手くやられてねぇか?まっ、いいか。気持ちがいいや。何か、愉しいや。
 
「以上でよろしかったですか?レジまでお持ちしますね。」
「ありがとうございましたー。またのご来店、お待ちしております。」
笑顔で見送られる。

「ありがと〜。また来るわ
〜。」
ふふ〜ん。っと、鼻歌交じりに足取りが軽くなった気分だった。

 男性客は店を出る瞬間まではとても気分が良かった。
右手でドアを押し、左手は靴下の入った袋。自分が思う以上に商品を買ってしまっている。予算オーバーだ。妻の怒った顔が目に浮かぶ。
 
 ニコッと微笑むあの笑顔の裏で、自分の心を見透かされていたような気がしてきた。自分の言動を殆ど反省することなく今までは生きてきたが、何だか急に恥ずかしくなってきた。
 
 男性客がその店を訪れることは、もう二度と無かった。

 華は又、今日も陳列を考えている。

  終わり。

年の始めに何書いてんの?って話ですが、
楽しんで頂ければ幸いです。
今から寝たいと思います。
お付き合い下さりありがとうございました。







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