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魔女のハーブは、あんまり甘くない 3ー5
◯森の泉(夜)
森のそこから湧き出る水が、泉に流れてこんでいる。
泉には、夜空の星の光が、ゆらゆらと反射している。
アカリ、泉のまえでココとならんでいる。
アカリ「ココちゃん、見えた?」
ココ「ニャ」
アカリ「よかった、やっぱりいるわよね、ぜったい」
アカリ、泉の前で、しゃがんで何かをひろう。
アカリ「ほら、こんなにきれいな羽・・。妖精の羽よ、これは」
アカリの指先には、透き通った小さな羽が、キラキラとかがやいている。
アカリ「セーラちゃんの言ってた通りね。妖精さんたちは本当にいるわ。いつも、森を守っている」
アカリ、腰をあげる。
アカリ「ようし、妖精さんたちと友達になって、本物の魔女になってやるぞ・・」
ココ「ニャオ」
アカリ「ね、ココちゃんも、そう思うでしょ?」
アカリ、ココといっしょに泉のわきを歩き、森の奥に進んでいく。
アカリ「でも、わたし、今、ペンダント持ってないんだよね・・」
アカリ、苦笑いをしながら夜空を見る。
アカリ「リサさん、元気にしてるかな・・」
ココ、アカリの顔を横目で見る。
アカリ、足をとめる。
アカリ「あれ、ここにも道が・・」
白く細い道が、泉と反対方向に伸びていた。
アカリ「・・・・?」
アカリ、白い道を進んでいくと、とつぜん巨大なカベがあらわれ、カベの真ん中に大きな穴があいていた。
アカリ「なんだろう、洞窟みたい・・」
アカリ、じっと大きな穴を見つめる。
アカリ「ココちゃん、いい?」
ココ、小さく鳴く。
アカリとココ、洞窟の中へと入っていく。
◯学校(朝)
ナナ、学校の校庭を歩いていると、カミーユが校門の方から歩いてくる。
ナナ「おはよー、カミーユ。あれ、その子は?」
カミーユのとなりに、赤毛のショートカットの少女が立っていた。
カミーユ「ああ、妹のリリアだよ。ほら、あいさつして」
リリア「おはようございます、ナナさん」
リリアがぺこっとナナに頭をさげる。
ナナ、おおと思い出したような表情。
ナナ「あー、思い出した。前見たより、ずっと大きくなってわかんなかった。あのときは、髪も長かったし」
リリア、にこりと笑う。
カミーユ「最近は、どんどん大きくなってきて、ぼくもびっくりしてるよ」
リリア「へへ、お兄ちゃんより、大きくなっちゃうかもー」
リリア、鼻の下に指をあてて、ちょっと照れた様子。
カミーユ「リリアは、ジュニアクラスだから、あっちの教室だね」
カミーユ、第1校舎のとなりにある第2校舎を指さしながら言う。
リリア「うん、じゃ、またねー」
リリア、手を振りながら、第2校舎のほうへ歩いていく。
ナナとカミーユ、第1校舎の中に入り、げた箱で上履きに履き替えていると、うしろからプレッシャーを感じる。
サウィン「あら、二人とも、おはよう」
サウィンが、いつものように腕を組んで声をかけてきた。
ナナ、ふりかえる。
ナナ「あら、サウィンちゃん、おはよう」
カミーユ「お、おはよう・・」
カミーユ、ふりかえらないまま言う。
サウィン「聞いたわよ。あなたたち、ハロウィンパレードでは、Cの列ですってね」
ナナ「うん、よく知ってるね」
ナナ、感心したように言う。
サウィン「そりゃあ、わたしは、実行委員ですもの。それくらい当然よ」
サウィン、得意そうに目をつむりながら言う。
サウィン「ちなみに、わたしも、グループCの列なのよ」
ナナ「え、本当に? 偶然だね」
カミーユ「そ、そう・・」
サウィン「まあ、それは、ドルイドくんが担当だしね。彼は、よくやってくれたわ」
ナナ「ああ、ドルイドくんね・・」
サウィン「よろしくね。仲良くやりましょうね」
サウィンが、ナナとカミーユを交互に見ながら言う。
ナナ「もちろん、よろしくね」
カミーユ「よ、よろしく・・」
ナナが、カミーユとならんで教室へ歩こうとすると、サウィンが間に割って入ってくる。
サウィン「カミーユくん、ちょっといい?」
カミーユ「え? う、うん・・」
サウィン、カミーユと強引に腕を組んで、廊下を歩いていく。
ナナ、ぽかんと口をあけて、2人の後ろ姿を見る。
やがて、階段の上から、どたどたと大きな音が近づいてくる。
ドルイド「やあ、ナナちゃん」
大柄な、色黒の男子が声をかけてくる。
ナナ「(力なく)あ、ドルイドくん、こんにちは・・」
ドルイド「おや、どうしたんだい? いつも、大きな声を出してるのに?」
ナナ「ドルイドくんの大きさには、かなわないよ・・」
ナナ、あきれたようにドルイドを見る。
ドルイド「そうかい、ははは。でも本当に、参加者のグループ分けには、苦労したよ」
ドルイド、腰に手をあて、満足そうに言う。
ナナ「本当に、じょうずに分けてくれたね・・」
ナナ、背中をむけ、教室へとのんびり歩いていく。
ドルイド「・・?」
朝礼のチャイムがなる。
◯森のはずれ(夕)
おじいちゃん、森でクルミを取ってかごにつめている。
かごの中は、クルミでいっぱい。
おじいちゃん「ようし、これだけあれば、しばらくはいいだろう。ナナも、好きだしな」
おじいちゃん、かごをよいしょと担ぎ、森の小道を小屋にむかって歩いていく。
すると、木の幹の小さな穴から、リスたちがぴょこっと顔をだす。
リスたち、チッチとおじいちゃんにむかって鳴く。
おじいちゃん、にこりとして、かごのクルミを小さな穴のなかに入れていく。
おじいちゃん「ほら、お前たちのぶんだ。冬を越すには、これだけあれば十分じゃろう」
しばらくすると、かごの中には、少しのクルミしか残っていないのに、おじいちゃん気づく。
おじいちゃん「おやおや、これだけになってしまったか。まあ、また取りにくればいいさ」
おじいちゃん、再び歩きだすと道の途中で足をとめる。
道のわきのきりかぶの上に、大きな帽子をかぶった女性が座っているのが見えた。
頭をおろしたまま、まったく動かない。
おじいちゃん「・・あの、大丈夫ですかな?」
おじいちゃん、女性に近づいて声をかける。
女性、ゆっくりと顔をあげる。
女性「・・あ、はい、大丈夫です。すこし歩き疲れてしまって・・」
女性が小さく笑うと、おじいちゃん、ホッとした顔で、かごのクルミをさしだす。
おじいちゃん「よかったら、これを」
女性「?」
おじいちゃん「森で採れたクルミです。元気が出ますよ」
おじいちゃん、両手でぱかっとクルミを割って、中の実を女性に見せる。
女性「まあ、ありがとう。いただきますわ」
女性、おじいちゃんの手からクルミを取って口にはこぶ。
女性「おいしい。とっても、なつかしい味・・」
そのとき、女性の帽子がうしろにずれて、顔が見える。
おじいちゃん、目を開く。
女性、ハッとして、帽子を被りなおす。
クルミを持ったリスたちが、枝の上をすばやく走っていた。
おじいちゃん「あなたは、まさか・・」
女性「はい?」
女性、おじいちゃんのほうをむかないまま、返事をする。
おじいちゃん「いえ、なんでもありません・・」
女性「ごちそうさまでした、では」
女性、きりかぶから腰をあげると、森の奥へと進んでいく。
おじいちゃん「まさか・・、そんなはずは・・」
リスたちが、両手で持ったクルミを枝のうえで、おいしそうに食べていた。
<3ー6へ、つづく>