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鑑賞録 #3 「ハズビン・ホテルへようこそ Ep.0+シーズン1」

地獄の過剰人口を平和的に減らすべく、悪魔を更生させるという一見不可能な目標に向かって奮闘する地獄の王女チャーリーの姿を描いた大人向けアニメーション・ミュージカル・シリーズ。
天国による年に一度の駆除の後、彼女はハズビン・ホテルをオープンする。救済可能であると証明された常連客が“チェックアウト”してくれることを期待して…。

Prime Video「ハズビン・ホテルへようこそ」



好みとの合致度:72%
 - アートスタイル:4/5
 - キャラクター:4/5
 - ストーリー:3/5
 - ノリ:4/5
 - 音楽:3/5


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お花畑な主人公とホテルの人々

本作は、強烈に品のない世界観で描かれるディズニー・プリンセスの物語である。

主人公のチャーリーは地獄の王ルシファーとリリスの娘。

この世界の地獄では一年ごとに天使による大虐殺が行われており、無惨に殺されていく地獄の魂たちを憂いた「チャーリー」が、地獄のみんなを救おうと悪戦苦闘していくお話だ。

チャーリー・モーニングスター

英語圏の方々や聖書を信仰されている方は「ルシファーとリリスが恋人って!」とか「ルシファーとリリスの娘が"チャーリー"って!」とかなるのだろうか。
私はなった。

両親の名前から引っ張ってきたら「レベッカ」とか「レイチェル」とか「ミリアム」とか「コルネリア」とか「フローラ」になりそうなところを別の王室が思い浮かびそうな「チャーリー」なのが面白い。

男の子の名前っぽいし「ルシファー」や「リリス」と比べて現代的!しかしチャーリーのキャラクターには合ってる気がするから不思議だ。

さて、本作の魅力は何といっても脇役たちのキャラクターとアートスタイル、治安の悪さにある。

私はディズニー・プリンセスや少女漫画のヒロイン、朝ドラのヒロインのように、ひたむきで、まっすぐで、イノセントで、一生懸命で、諦めない心を持ち、信じればきっと叶うわ!生きていればきっといいことがある!
みたいなキャラクターが大の苦手だ。

どれだけ素敵なメッセージを発信していても、受け止める私の心が荒んでいるせいで共感できず、いやもういいわ……誰もがあんたと同じくらい前向きになれると思うな、となってしまう。

そういう意味で私はチャーリーをバカにするキャラクターたちと似ているが、チャーリーをバカにされたらされたでなんか腹立たしいという謎の視点から視聴している。

一方でチャーリーの天真爛漫・純粋無垢ムーヴと拮抗するほどに悪辣でダークな雰囲気漂う魅力的なキャラクターたちが勢揃いしているが、ほぼ全員のメンタルヘルスに問題があり、人格破綻気味で、コンプラなんて微塵も感じさせない言動の面々だ。


チャーリーはディズニー・プリンセスで少女漫画のヒロインで朝ドラのヒロインなので「まず実績を示して周りからの信頼を獲得する」とか「協力しようと思わせるだけの具体的なメリットを提示する」のような"計算高い"方法はとらない。

「私はプリンセス!地獄のみんなを救わなきゃ!地獄のみんな!天使たち!私の声を聞いて!」といった具合に、感情論とポジティブのゴリ押し。

世間知らずで考えるより先に感情で動くため、地獄の状況や仲間の立場を悪化させ「私のせいだ!私がダメなせいで!」と嘆いてはミュージカルを開催している。

当然、地獄の面々はそんなチャーリーをお花畑女呼ばわりし、ガールフレンドのヴァギー以外は耳を貸さない。

ヴァギー

しかし、伝説級に強くあらゆる支配層から一目置かれているクセスゴ悪魔のアラスターがお花畑チャーリーに興味を持って協力を申し出たことで、チャーリーの計画は「一概に夢物語とも言い切れないのかも……?」くらいの現実味を帯び始める。

アラスター

このアラスターを筆頭にわがままで自己中心的で破滅的で独善的で自堕落なキャラクターがしっかり脇を固めており、チャーリーのお花畑が行き過ぎればきな臭い描写や重めのシーンがそれを緩和し、品性がついえる前にチャーリーの純粋さで持ち直すというとてもいいバランスだ。

欲望に忠実で刹那的なキャラクターたちが愛おしい。彼らは私にとっては安息地みたいに思える。

それぞれに闇を抱えつつも承認欲求に取り憑かれて自分をよく見せようと躍起になったり世間体を気にしてちぢこまったりせず「自分がやりたいことをやってるだけ。それで誰かが不快に思うとかどうでもいいわ〜」という潔い感じが、コンプラだのポリコレだのルッキズムだのなんだのと過剰に漂白されて疲れた現代人には心地よいのかもしれない。

ちなみに一番好きなキャラクターはニフティ。

ニフティ


さらに本作のいいところは、主人公だけが周りを照らす光なわけではない点にもある。

本作のチャーリーはヴァギーを救い、アラスターに「おもしれー女」扱いされ、父である地獄の王ルシファーに溺愛されているという少女漫画的キャラクターではあるものの、登場人物たちは必ずしもチャーリーに救われて更生していくわけではない。

チャーリーがお節介で他人の事情に介入しそこそこの迷惑をかけても「一生懸命だし悪い子じゃないんだけどね……」と酌量され、嫌われはしない。
しかし「チャーリーみたいな"キレイな子"に自分たちの苦しみは分からないだろう」と"理解者"としては期待されていない節がある。

とはいえホテルの方針はチャーリーが決めているため基本的にオープンマインドで、「めちゃくちゃヤバそうなやつでも一旦は話を聞いてみる」「たとえ自分たちを殺そうとした相手でもちゃんとごめんなさいして心を入れ替えたら許す」という受容的な雰囲気(にさせられている)。

そういう方針の中、彼女があれこれと失敗しながらも繋ぎ止めた"スレて汚れて疑心暗鬼で人生を諦めたはぐれ者"のキャラクター同士がいがみ合いつつ共感しあい、助け合い、心の寂しさを少しずつ埋めていく。

そして心が満たされるにつれ徐々にチャーリーの計画に理解を示し、「しょうがないな、手伝ってやるよ」と社会復帰するのだ。

それが「チャーリーのために」ではなく、「自分の居場所(仲間たち)を守るために」とか「自分の望みを実現するために」という動機なのがとても好ましい。

チャーリーは私が苦手なタイプの主人公ではあるが、彼女や本作に対する反感があまり湧かないのは登場人物たちの好転が「主人公だけの手柄」として扱われていないからだ。

彼女によって保たれた縁が寛解のきっかけを作り出しているが、登場人物たちが相互に影響しあって変化が生じており、チャーリー以外のキャラたちもいたからこその更生として描かれているのが好きだ。

しかしチャーリーの役割は大きい。

営業をやらせても契約できないどころか取引先を怒らせるし、製造をやらせてもミスってめちゃくちゃにするし、企画をやらせてもトンチキ提案ばかりしてくるが、あの人がいると会社全体の雰囲気よくなるしなんかまとまるんだよね〜〜みたいな人だ。

お花畑のキラキラ人間ばかりでは困るが、合理的でビジネスライクで正しいことしか言わない人や失敗しない人ばかりの集団というのもよくない。チャーリーみたいな人は現実でも本当に必要である。



チームVとアダム

本作の悪役は二派閥ある。

一方は地獄の支配層にいるチームV(Vees)のヴェルヴェット、ヴォックス、ヴァレンティノ

もう一方は天界のアダムとエクソシストたち


両派閥ともとんでもないサイコパス&利己主義者&差別主義者たちであるが、シリアスに酷いことをやっていてもキャラデザとキャラがよすぎるせいで憎みきれない。

(しかし後半、アダムやエクソシストの顔はマスクであると分かり人間のような顔が覗いてしまったせいで普通に好感度が下がった。人外の見た目だったからこそ笑って許せたキャラである。)

アダムは天使でありながら低俗なことを平気で口にする品性下劣なキャラクターで、短絡的にしか動かず自分の立場を悪くしないための最低限の行動さえできないし、煽り合いの語彙も乏しくFワードを連発するだけのおバカさん。

だが、歌唱シーンはとても素敵である。

本作の特徴の一つであるミュージカルシーンだが、悪役たちや裏の顔がありそうなキャラクターの曲がよく、ミュージカルアニメが苦手な私でも楽しむことができた。



二度楽しめる

Amazonで配信されているSeason1を観るにあたってはEp.0を先に観ておく方が分かりやすいと思う。またHAZBIN HOTELに関する20ページ前後のコミックスがいくつかあり、今もweb上で読むことができる(はず)。

コミックスとEp.0を通らずにSeason1を観ても若干の説明不足感があるだけでストーリーの理解に問題はないが、チャーリーたちとエンジェルが出会うエピソードやエンジェルとヴァレンティノの歪んだ関係性が端的に描かれているコミックもあるし、

Ep.0はSeason1 第一話の一週間前にあたるため前日譚として地続き&登場人物たちの紹介やアラスター参加の経緯も描写されているので、いずれにせよいつかは触れておくのがよいだろう。

ただしEp.0の日本語吹き替え版はファンメイドを公式が正式採用したものらしく、S1からは声優が変更になっている。(原語版でも刷新されたとか)

Ep.0が約30分、Amazon版は各話25分でSeason1は全8話。延べ230分ほどしかなく4時間あれば完走できてしまうので、日本語字幕や日本語吹き替えで観たあとにぜひ英語音声+英語字幕などで二周目を鑑賞してほしい。

日本語にある悪口程度では英語の酷い言葉を再現しきれず日本語訳するだけで本来の過激さが薄まるし、意図的にマイルドにしたのか(特にEp.0は)セリフごと変わっている部分が結構あったからだ。

日本語字幕にする際の宿命である情報の欠落も多いので、その点は吹替版で補完するのもいいと思う。原語の声と吹き替えの声でキャラが違って感じる登場人物もいるが、ある程度は仕方ない。



シーズン2を待機中

シーズン1をすぐ観終わってしまい、2周目も終わってしまい、日本ではグッズもろくに手に入らない。キーキーかニフティかアラスターの何かがほしい。

海外のサイトを眺めて羨む日々だ。


シーズン1最終回の時点でも登場人物たちの課題や謎は山積み。

  • 天国と地獄の関係改善

  • チャーリー家族の関係改善

  • エンジェル・ダストの契約問題

  • ハスクの契約問題

  • アラスターの契約問題

  • Vees問題(これは残ってもいいか)

  • リリス問題

  • 上級悪魔たちの活躍

  • ヴァルの触角の謎(写真では両方あるが今は片方欠けてる)

  • サー・ペンシャスの活躍とチェリーとの関係


めちゃくちゃ今後に期待できる要素が残っているしラストは若干のクリフハンガーだったので続編はあると思うが……気長に待っておこうと思う。



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