鑑賞録 #10 「ヘルヴァ・ボス シーズン1 第6話:Truth Seekers」
悪魔の存在を調査(研究?ストーキング?)しているD.H.O.R.K.S.という組織にブリッツとモクシーが捕獲されてしまい、あれこれする回。
D.H.O.R.K.S.ってどういう意味だろう。
Dorks(ダサい、暗い、陰キャ)をもじってる?
ヘルヴァ・ボスにしてはめずらしく立体的な戦闘シーンが繰り広げられていて、コメント欄でもちょこちょこ触れられていた。
キル・ビルは観たことがないのだが、D.H.O.R.K.S.のエージェントが自組織の武器について
「俺たちってなんで日本の武器ばっか使ってんの?!」
(時代どうのこうの言ってたけど聞き取れなかった。「江戸時代の」って言ってる?)
「はあ?江戸時代最高じゃん!」
「くそっ、その通りだ……」
というワケの分からんやり取りをしているので、アジア要素をふんだんに取り入れているというキル・ビルみたいな雰囲気があるのかもしれない。
ん?ちょっと待て?
Dorksみたいな名前の組織が使ってる武器が日本のやつで「Edo最高」とか言ってるってことはつまり日本がDorksってことかいViv?(ヒス)
「日本の武器しか使ってない」にしても個人的に馴染みのない武器もちらほらあり、試しにJapanese weaponsとかNinja Weaponsで検索してみたところ英語圏ですんごいまとめられていた。
作中で出てきているのは手裏剣、鎖鎌、刀、釵、薙刀(あるいは長巻)あたりだろうか。釵なんて武器があるの初めて知ったな〜〜
他にも幅広で曲線的な刀剣が出てきていたが、あれはJapanese weaponじゃなくてたぶん中国の武器がモデルだと思う。
あえてなのかガチなのか分からないがサウス・パークでも日本と他の国の区別がついていない感じだったし西洋のアジア描写あるあるだ。
心の中を曝け出す二人
捕獲されたブリッツとモクシーは尋問を受けるが、拷問を示唆されるものらりくらりと躱しているやりとりが面白すぎる。
自白剤のような効果のある「TRUTH BOMB」を食らい初期症状として本音と建前が制御できず不本意に互いの悪口言い合っちゃう二人かわいすぎか。
モクシーが言いたいことを言わずに黙っていたというのは分かるが、普段あれだけモクシーをボロクソに言っているブリッツが本当に傷つけてしまいそうなことは言わずに方便を使って隠していたとは驚いた。
思わず本音を言い合ってしまい「ごめんよ〜〜〜〜〜〜!!!!」となっているのが非常に微笑ましい。
徐々に幻覚まで見えてくる二人だが、モクシーの幻覚は「オペラ座の怪人」のミュージカルみたいな世界観で相手はブリッツのみ。
「なぜ自分を虐げるのか」と問いかけ、反抗するモクシー。
相手役のブリッツが下品すぎておもろい。
一方その頃ブリッツは「ミッドナイト・ゴスペルかよ!」な世界観の幻覚の中。相手がブリッツだけでオペラみたいだったモクシーと違い、ブリッツは泥だらけになりながら対モクシー、対ストライカー、対フィッツァローリ、対ヴェロシカ、対ストラスである。
ブリッツ、どれだけ抱えてんのよ。
幻覚の中のモクシーがやけにインテリっぽくブリッツを見下したように色々言ってくるが、ブリッツの幻覚なのだからブリッツの思考や意識が反映された結果と見ていいだろう。
たしかにD.H.O.R.K.S.のエージェントにコーヒーのパシリを依頼する際のモクシーの様子はこだわりが強く神経質で理屈っぽい性格を感じさせるが、ブリッツの傍若無人で適当なところを諌めこそすれ嫌ったり見下したりしているとは思えない。
つまりブリッツ自身が「本当は見下されているかもしれない」とか「自分の能力が低い」と思っているということだ。
ブリッツの受難は幻覚モクシーだけにとどまらず、ストライカー、フィズ、ヴェロシカからも呵責を受け、堪えかねているところに豪奢で泥まみれの上り階段が現れる。
ブリッツが階段を駆け上がるが、途中で見えない壁に阻まれそれ以上先に進めない。すると天からストラスの "Are you afraid to love people Blitzy?"という声が聞こえてくる。
ストラスに気づき這うようにして階段を上ると、ブリッツの手首には装飾の施された金の手枷が嵌められ、ストラスに近づくにつれて泥が消え落ち、赤白のピエロの格好から普段のフォーマルな服装に変わっていく。
最後に鎖のついた金の首輪が嵌められたところで泥がすべて取り払われ、鎖でストラスの元に手繰り寄せられたブリッツがおとなしく従う。
幻覚ストラスは上品に微笑むだけで何も声をかけないし口を開きもしない。
幻覚のフィズやヴェロシカはブリッツを「一人じゃなんにもできないくせに」と否定したり痛いところを突いてきたりはするが、ブリッツと同じ地面にいて同じくらい泥まみれ。
しかしストラスは長〜い階段の一番上で煌びやかな王座に腰掛けていて、両脇でブリッツの形をした影が2体、扇を持ってストラスをあおいでいる。
この一連のシーンヤバくないか?
これがブリッツの中のストラスと彼との関係性のイメージってことだ。
ブリッツは悲惨な境遇からなんとか這いあがろうとしたけど自分の力ではどうにもならなくて、今の環境があるのはすべてストラスの力のおかげだと思ってる?
視聴者はストラスが純粋(あるいは病的)にブリッツを想っていることを知っているが、ブリッツからすれば支配層のお貴族様と最底辺種族という越えようのない格差があるし、自分は扇持ちのように奉仕しているだけという認識ってこと?
実際に今の仕事をこなすためにはストラスに依存しなければならないし、階級差・身分差は本当にある。
ヒエラルキーを分かりやすくまとめたファンメイド画像があった。
階級が4つも違うのか……
1x5でストラスが
"My grimoire is actually incredibly important, and it isn't suppose to be lent out to itty-bitty imps like yourself."
「私の魔導書は極めて重要で、本来は(君みたいな)インプに貸せるものじゃないんだよ」
と言っているし、地獄の価値観でいけば「貴族様のご厚意で身に余る力を使わせていただいている」みたいな状態なのかもしれない。
ストラスとしては恩を着せたいわけじゃなく「君は特別なんだよ」くらいの、親しみを込めて言っているのだろうけど……
そもそもストラスは目に入れても痛くないくらい溺愛している娘をよりによってLoo Loo Landに連れて行き(1x2)、全っっ然似合っていない庶民アイテム(しかもクロゼットにちゃんと保管している:1x7)を嬉々として身に纏い、ロボ・フィズのステージをスタンディングオベーションしかねないほど楽しむような変人だ。
もしかしたらブリッツもストラスの愛情を無意識では感じているのかもしれない。鎖で引き寄せられても抵抗するような素振りを見せなかったから、ストラスを憎からず思ってはいるんだろう。
しかし幻覚のモクシーとヴェロシカが「あなたは対人関係の構築の仕方に問題がある」という感じのことを言っているし、幻覚ストラスからも "Are you afraid to love people Blitzy?" と言われている(つまりどちらもブリッツ自身がそう思っている)から、誰かと本当に親密になって心を委ねるのが怖いんだ。
モクシーとストラスは本人の声だけど幻覚のストライカー、フィズ、ヴェロシカはブランドン(ブリッツの声優)の声だし、ブリッツ自身の心理が他者の姿を介して表出(敵対)しているという解釈でいいと思う。
そして極め付けが全員からの "You're going to die alone."
なんだこの鬱アニメ!!!!
ブリッツが心の奥底ではこんなに自己否定的で、自分に問題があると思っていて、こんなに出自へのコンプレックスが強くて、こんなに孤独を恐れていたとは……
モクシーが幻覚の中で打ち明けている悩みも現実的で重い悩みなのに、対比がすごすぎて「思春期かよ」みたいに見えてしまう。
それにモクシーが深刻に悩んでいても「でもあんたにはミリーがいるじゃん」っていうのがあって、精神的な支柱が何もないように見えるブリッツの心中はいかばかりか……と思っちゃうんだよ〜〜〜!!
家族でも友人でも恋人でも「この人は自分を愛してくれて自分のために怒ってくれる、味方になってくれる」と心から信じられるような人がいると本当に気力が違う。
そういう支えもなしに過酷な境遇(後のエピソード)を堪え、低級扱いの種族でありながらビジネスを立ち上げ、部下を雇い、ルーナの里親になり……と奮闘しているブリッツをどうしても贔屓目で見てしまう。
いやもうこれはほんとそう。
ブリッツ側の葛藤だけ見るとすごく同情するが、ブリッツは普通にひどいこともしてるっぽいんだよな〜〜〜
ルーナを養子に迎えて溺愛したり、相思相愛の夫婦であるモクシーとミリーの関係に執着してストーキングしたり、部下が攻撃された途端に目の色を変えて激怒したりと本当はめちゃくちゃ他者との繋がりに飢えているのに、なんであんなんなっちゃうんだ。
今回の幻覚を踏まえると
親しくなるのが怖い
→心の中に入ってくる(のを許してしまいそうな)人たちをわざと傷つけて突き放す
→自己嫌悪に陥って自己肯定感が下がる
→自己肯定感が低いから愛されている自覚が持てない(自分には愛される価値がないと思っている)
→愛されていると思えてもいずれ拒絶されるだろうと思い込み、それを恐れている
→親しくなるのが怖い
の悪循環が起こっている感じだろうか。
モクシーとブリッツの抱えているものはどちらも「本当の自分を拒絶されたくない」「愛し愛されたい」なのに、ブリッツの闇の深さが恐ろしい。
しかし、奇しくも敵側の策略によるこのTRUTH BOMBがブリッツとモクシーの関係性に対してはカウンセリングやセラピーとして機能し、幻覚から目覚めた後の二人がお互いに素直な気持ちを伝える展開に。
二人が健全な雰囲気になってるの、ちょっとぐっときちゃう。
ストラスの本性
ブリッツとモクシーが打ち解けたところでルーナとミリーが救出のために到着し、IMPの面々は脱出に向けてD.H.O.R.K.S.のエージェントたちを大勢惨殺。
冒頭で言及したキル・ビルみたいなシーンはこの辺。
IMP側が無双しまくるもメインで出てきていたエージェント2名に追い詰められてしまい、絶体絶命の大ピンチ。
ここで登場するのがストラスである。
コメディ・リリーフで子煩悩で健気で変人で変態でキュートなところばかり見せてきた彼が、ラフマニノフかと思うような厳かな曲調のOwl in a cageが流れる中、姿を見せぬまま人間たちを完全に圧倒し、フル・デーモン(完全体)になって顕現し、高笑いしながらエージェントたちを恐怖に陥れる。
このシーン、とても怖いがめちゃくちゃかっこよく、「そういやストラスってめちゃくちゃ強い悪魔だった」と思い出すことになった。
参考:ラフマニノフ ピアノ協奏曲 第2番 Op.18
この時ストラスは「完全体で現れただけ」で、エージェントたちには一切攻撃していない。
「現れただけ」でブリッツたちを窮地から救い出し、「なぜ助けが必要だと分かった?」と戸惑うブリッツに優しく声をかけたあと、普段は使わない(というか通常ピー音で消されている)Fワードをはっきりと用いて「なぜ人間に捕まるような状況になってる?」と詰め寄り、「あなたの厄介ごとは私の厄介ごと」という過保護ジャイアン理論でブリッツを叱りつける。
か、かっこいいぃ……!!!
ストラスのおかげでIMPのみんなは無事に地獄に帰ることができ、この回ではブリッツとストラスの仲も良好だ。本当に良かった。
本当に良かったが、今後の展開をひととおり観ている身からするとブリッツもストラスもどちらも拗らせていて一筋縄では幸せになれない関係なのを知っているし、そのせいで某エピソードを視聴したあと我が人生では類を見ないほどのdepressionに陥るという経験までした。
マジで冗談じゃなくしんどかった。
番外編でいいからブリッツとストラスが仲良くしている回を作ってほしい。できればストラスはコメディ・リリーフをやってほしいんだ。
Viv、頼む。公式から出てくるのが鬱展開ばかりだと私のメンタルが本当にやられるっていう実績ができてしまっている。