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鑑賞録 #38 「ヘルヴァ・ボス シーズン2 第12話:SINSMAS」

HB S2 、シーズンフィナーレがとうとうリリースされてしまった。
リリースを毎月待ち遠しく思っていたがいざ実現されると「もうS2も終わりか……」と寂しい気持ちである。



ブリッツ:尽くすタイプモード

S1から概ねのエピソードを通じて「役に立たない自分に価値はない」と心の奥底からプログラムされている様子を見せられてきたブリッツだが、前回の終盤頃からはそれが比較的ポジティブな方向に働いているようだ。

自己肯定感セルフ-リスペクトは地獄のように低いが自己効力感セルフ-エフィカシーは真っ当というブリッツの出来上がり方もまさに「役に立たない自分に価値はない」という思考の賜物のような気もするが、今回はその傾向がはじめて仕事以外のことに対して奏功しているようにみえる。

暗殺やセックス・スキルに優れているという自負はそれなりの努力と実績によるものだろうが、それらは利害関係あってこそ強く発揮されてきた。

ルーナやM&Mに対する庇護精神・献身的な姿勢はシリーズ序盤から見られたが、どちらかというと父親として、上司として、仲間として(あるいは執着対象に対して)の使命感・責任感みたいなものがモチベーションになっている部分が大きかったかもしれない。

しかし今回は義務や任務遂行ではなく、恋人(想い人)に対する労りや「命をかけて自分を助けてくれた」という事実からくるストラスとその愛情への信頼、それに報いようという幼気いたいけなものを感じる。

これまでストラスにはぶっきらぼうに接してきたブリッツが一転、傷心の彼をあたたかくもてなしケアする様子は微笑ましくもあるが、しかしストラスの顔色を窺って「お気に召すように」と最善を尽くす姿はブリッツのトラウマや歪な人格が表出しているようで切なくもある。

救いなのはストラスが「お世話され慣れている人」であることで、甲斐甲斐しく世話される側としての受け入れ態勢が万全という点だ。

もちろんブリッツを従者のインプと同じとは全く思っていないし幼少期からの友人として(比較的)対等な関係を築いているが、世話焼きタイプと世話され慣れているタイプの相性は普通にいい。

これが敬意を欠いて主従と呼べるほど立場の上下ができてしまうのは不健全であり、DV・ハラスメント横行の関係性だが、幸いストラス側も幼少期からブリッツに尽くすタイプであったので、実態としてはトントンである。


余談

たとえば長男・長女として育ってきた人と末っ子として育ってきた人が友人になった時、好相性が発揮される場面が多いなと感じる。

長男・長女はヤングケアラーになりがちという闇もあるが、やはり幼少期から自分よりも幼いきょうだいのいる環境で育ってきた人は面倒見がいいことが多いし、兄や姉に頼れる環境で育った末っ子は大人になってからも甘え上手だ。

長男・長女でも末っ子みたいな気質の人は当然いるが、やり慣れている役割というのは居心地がいいし物事がうまく回ることも多い。

こうなると世話を焼く側だけが「労働力の搾取」をされているように感じるかもしれないが、あくまで性質の相性の話であってどこまでいっても「親しきに中にも礼儀あり」である。


Wholesome Parent

ステラが2x11で父親の死を悟って泣くオクタヴィアを抱きしめながら「娘の気持ちよりも自分の復讐達成の快感の方が遥かに上」とばかりにほくそ笑んでいたのにも引いたが、最悪オクタヴィアにバレなければセーフとも思っていた。

しかし、残念ながら2x12のステラはオクタヴィアを"his daughter"といい、娘と父親の間を引き裂いて目の前で高笑いするようなカスである。
アウトもアウトの振る舞いだ。

ストラスの浮気を発端としたヒステリーをオクタヴィアの前でも起こしているのはある程度しょうがない部分もあると思っていた。が、父親と引き離して高笑いはさすがにしょうがなくない。

娘の前ではもうちょい上手いことやってほしいぜステラ。

しかし疑問が一つ。
オクタヴィアはなぜステラには文句の一つも言わず、憎しみをストラスだけに向けるのだろう。

ステラとアンドレアルフスの振る舞いは明らかにおかしいが、それに対して文句を言えないような思考になっているとすれば、どこかに情報の歪みがあるはずだ。

1x2でオクタヴィアがストラスに"Home doesn't even feel like home anymore…… you ruined it."(homeはもうhomeじゃないみたい。パパが壊したんだよ)と言っているから、家庭崩壊の原因はストラスの浮気「だけ」だと思っていて、ステラは100%被害者だから娘の自分が味方してあげないと、と思っている……??

ストラスはオクタヴィアの前でステラの悪口を(離婚決定直後に電話でめちゃくちゃ言っていたが)基本的には言わなかったし、1x2でも結局本当のことを話すのを躊躇って何も言わなかった。

もう一方の親の悪口を言わないというのは親として正しい行動だが、それによってステラ側からの情報ばかりがオクタヴィアにインプットされてしまったとしたら悲しいことである。


超長めの脱線

めちゃくちゃ有名な動画だと思うが、「娘の気持ちよりも自分の復讐達成の快感の方が上」で思い出したので、ここで引用する。

(全然HBに関係ないので次の見出しまで飛ばしても2x12の感想の流れに全く影響しない)

これはアメリカのLauren Lake's Paternity Courtという"裁判形式の番組"の映像だ。

この動画は「男性が娘の生物学的父親か否かを証明する」ことがテーマの回で、結局「男性は生物学的父親ではない」という結果が出る。

しかしエンタメとしては、女性が自分の勝利を確信して場を弁えない振る舞いをしたこと、自分にとって思い通りの結果になったとはいえ、一人の父親が愛する娘を失い、愛する娘が愛する父親を失ったという不幸な事実に対する思いやりの欠如、という点に対し「あまりにも愚かで自己中心的」とガチギレされているシーンがメインのようだ。

コメント欄は女性をこき下ろす言葉で溢れかえっているが、この番組をそのまま素直に受け止めればそうなるだろう。

しかし、番組であるからには視聴率を稼ぎスポンサーを維持しなければならず、真相を究明すること以外の目的(ショービズとしての成立)があるのだから100%信用していいものではない。

女性側のロジックがあまりに弱く、加えて全体の流れがスムーズに進みすぎているので、事実がベースであれ(偏向気味の)台本は存在すると思われる。

出演者には結果のみが伏せられ、結果が開示されるまでの前振りや答弁は当人たちから聞き取った情報を元にある程度の台本が組まれ、それによって裁判形式の流れが作り上げられていたとしても、むしろ番組進行のための取り組みとして自然だ。

そして、細身かつ寒色でまとめたスーツを着た男性、かなりふくよかで黒のスーツに黄色のインナーと黄色のネックレスの女性、というのも、深読みかもしれないが演出を感じる。

まずは体型。

欧米は体型に寛容などと思われがちであるが、全然そんなことはない。
「太っている」とは「管理ができない」と同義であり、ビジネスパーソンとしてはしっかり篩にかけられる。

そして色。

政治やビジネス、裁判の場では当然「色の与える印象」も重要視され、欧米においても青は「知的さ、冷静さ、信頼や安定」の印象を与えやすいことからビジネスや金融界隈でも重宝される色だ。

一方で欧米での黄色は楽観性を表したり交通機関や車関連の色でもあるが、キリストを裏切ったユダの服の色として用いられることから「裏切り、卑劣、臆病」を連想させる場合も多い。

日本ではどちらかというと子供の色というか、登園する子供たちが身につけている可愛らしい色で「活発さ、希望、豊かさ」というイメージが強いが、いずれにせよ裁判(形式の)場にふさわしくはなさそうだ。

色のイメージそのままを印象付けるためなのか、そういうことも分からない考えなしの人物と印象付けるためなのかは分からないが、(本人のコーディネートなのか番組のスタイリストが選んだのかも明らかでないものの)白黒はっきりつけたいアメリカ的性質を利用して「女性側に非があるに違いない」と思わせ、「叩いていいのはこちらですよ!」と煽るための演出なのでは?と勘繰ってしまう。

なんにせよ、

この3歳の少女にとって、実の父親は名前も顔も分からない、父親だと思っていた人とは血の繋がりがなく、しかも自分の母親を裏切って何度も浮気していた。

そして実の母親は未熟さと思いやりのなさを法廷(を模した番組)で露呈し公衆の面前で叱り飛ばされ、その映像が全世界に公開され、エンタメとして消費され、コメント欄ではボロクソに叩かれている。

……この少女が娘役としてキャスティングされただけの無関係な人物であればよいが、そうでなければ大人のエゴの犠牲者である。

ただ忘れてはいけないのは、この動画は「観た人が勧善懲悪的にスッキリする」ような"ポルノ仕立て"になっているということ。

この短いやりとりを観ただけで自身の正義感に火をつけ、短絡的に義憤にかられるのはいささか愚かである。

どこまでが真実かわからないのだから、現実の家族として片一方に感情移入してコメント欄で正義の味方ぶって糾弾するのではなく、ただのサンプルとして思考実験の題材程度におさめるべきものだ。


タイムリープで未来を修正するの難しすぎる

さて、Lauren Lake's Paternity Courtのサンプルに鑑みるとステラ側の描写をもっと多く観ないとフェアじゃないが、あの凶暴さが家庭環境による歪みでなく生来のものだった場合、悪いのはステラではなく政略結婚させたストラスの父、あるいはそんな制度を良しとしているGoetiaや貴族全体の慣習ともいえるだろうか。

つまりストラスの家庭の悲劇を根本的に断とうと思うとストラスとステラは結婚せず、「オクタヴィアが存在しない」世界線になりかねない。

ストラスがブリッツと引き裂かれなければルーナが彼らの子供になっていたかもしれないが、ストラスがずっと隣にいる世界線のブリッツは養子をとる選択をせず、ルーナはあのまま悲惨な運命を辿った可能性もある。

そもそもブリッツの人生に悲劇が起こらなければフィズと結ばれていたかもしれないので、ストラスはただただ「魔導書を昔馴染みのインプに盗まれた貴族」になっただけかもしれない。

もっといえばサーカス観覧はステラの写真を見て泣いているストラスを慰めるためのイベントだったわけだから、ステラを許嫁にされないストラスはサーカスに行かず、ブリッツとも出会わず、悲劇の起こらなかったブリッツはサーカスを続け、魔導書を必要としなかっただろう。

お互いの人生に悲劇があったからこそ出会った2人で、悲劇だったからこそ出会うことのできた愛娘たち……たらればのタイムリープで未来を"修正"しようなんて土台無理な話だ。


新たな課題・謎

S2フィナーレを迎えブリッツとストラスの関係は良好になったが、ブリッツたちに残された課題はまだいくつもある。

前の記事ではブリッツに残された課題として以下2点を挙げた。

  • バービーとの和解

  • 「自分のせいで母親を失った」というトラウマの克服

そしてやはりストラスとオクタヴィアの親子関係は修復されず、ストラスはざっくり以下3点の課題がありそうだ。

  • オクタヴィアとの和解

  • アンドレアルフスから権力を取り戻す

  • オクタヴィアの親権を取り戻す

  • ステラとアンドレアルフスを自分たちから遠ざける

ストライカーやモクシーにとってのクリムゾン、フィズたちにとってのマモンの存在も無視できないが、ストライカーはビジネスなしに無闇に攻撃してはこないだろうし、ひとまず直近の課題は家族問題がメインと見ていいと思う。


権力と親権の奪還

ストラスがGoetiaの権力を取り戻すこと・オクタヴィアの親権を取り戻すことに関しては単にアンドレアルフスとステラをやり込めればいいわけではない。

掟を破った咎としてサタンが取り決めた100年間の懲戒であることから、これを覆すにはオフィシャルに認められるような方向から攻めていかなければならないはずだ。

アンドレアルフスがストラスの権力を預かるに相応しくない/Goetiaあるいは地獄の秩序(あるのか?)を脅かす存在であることを証明したりするのだろうか。


オクタヴィアとの和解

ストラスとオクタヴィアが和解するには対話あるのみだと思うが、頑なになってしまったオクタヴィアの心を解くにはブリッツとストラスの仲やステラがただの「かわいそうなサレ妻」じゃないことを理解してもらう必要があるかもしれない。

しかしストラスが抗うつ剤を常飲していたことさえ酌量の材料にならず、むしろ「私の存在が重荷だったせいでこんな薬に頼らざるを得なかったのか」と処理しているし(心の奥底では違うかもしれないが)、まじでどうやって和解すんの?

またルーナが間に入ってくれるとか?


ブリッツとバービーとの和解

これもオクタヴィアとストラスの和解同様、どうやって和解すんの?である。

バービーがブリッツを遠ざけている理由がバービーから直接語られてはいないので、視聴者は「ブリッツが原因で母親を亡くしたこと」を暫定理由として理解しているが、理由はそれだけなのだろうか。

ブリッツが母親を愛していたことは当然バービーも知っていて、原因になってしまったとはいえブリッツが心底から苦しみ、後悔し、罪の意識に苛まれていることくらいは分かっているはず。

むしろ母の死の原因になったこと自体は(許せないまでも)責めるつもりはなく、リハブに通いながらなんとか立ち直ろうとしている自分に兄貴ぶって過干渉をかましてくることが我慢ならないのか。

同じ火事で重傷を負ったフィズやリハブ仲間のヴェロシカがフォローしてくれるとか、あるいは母親の死の原因に父親が絡んでいることが発覚してブリッツの罪が軽くなるとか、何かそういうのがあればまだ希望は見えそうだけれど……分からん。


新たな謎

2x11の終盤、ミリーが涙ながらに妹に電話をかけるシーンがある。

そして泣き崩れる前に画面に映し出されていたのは紛れもなく妊娠検査薬だ。

HB 2x12

妊娠検査薬は陽性の場合に縦線が1本増えるのが定石なので、この検査薬の結果は「陽性」、つまりミリーは妊娠しているということが分かる。

一般的にM&Mほどの仲良し夫婦であれば大喜びするイベントに思われるが、喜ぶどころかミリーは絶望の表情だ。

なぜだろう。

ミリーのバックグラウンドに、虐待されていたとか、機能不全の家庭だったとか、あるいは捨て子であるとか、そういう事情があったりすれば「子供を持つこと」「家庭を持つこと」に後ろ向きな気持ちがあっても仕方ないよなあと思えたりもするが、1x5を観る限りミリーの家庭は作中随一と言ってもいいほど健全で仲の良い雰囲気である。

そして夫のモクシーとも最高に仲良し。何が彼女の表情を曇らせる要因になっているのか、現時点では謎でしかない。

そして、電話を終えてモクシーのもとに戻ってから、意味深な様子で"You know I love you?"と聞いている。

ミリーはモクシーへの愛情を疑われかねないことをする気でいるのだろうか。

地味に一番怖い謎かもしれない。


おわり

一旦の区切りを迎え、VivはしばらくHHにかかりきりになったりするのだろうか。

HB S3のアナウンスは特に出ていないし、早く続きを知りたいが永遠に終わってほしくないジレンマである。

前述の課題以外にもS2までにあまり出番のなかったレヴィアタンとベルフェゴールが出てくるエピソードがありそうだし、サタンが言及したからにはルシファーの登場があってもいいはずだ。

基本的に馴染みの大罪たち(マモン、オジー、ビー、ルシファー)はナイスキャラだったからどんどん出てきてほしいし、フィズはもっともっと出てきてほしいし、サタンはそこまでキャラが分からないにしてもサタンが出てくるということはYogirtも出てくるのだろうから、Yogirtのバーターでサタンも出演してほしい。

Yogirtを出すためにサタンを出してほしい。

ストライカーがこのまま野放しなのも嫌だし、ブリッツ父の所在もいまいち分からないし、種だけ巻かれて収穫しきれていない部分がたくさんありそうなのでかなり楽しみである。

S3を楽しみに、なけなしの英語力が潰えないよう努めつつ、待とうと思う。



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