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NewJeans 'Cookie'からーアイドルと舞妓の近似性について
HYBE傘下のAdorというレーベルらしい。かなりのリアクション動画が出ていて、Kpopニュースメディアでも話題になってたので見てみた。まずはAdorというレーベルだが、同じ可愛いを表すCutieとかではなくAdorを持ってきたところに「無垢」なイメージを見ることができる。中学生が多いグループにふさわしいレーベル名という印象。 しかし今般問題になっているのが今回の曲に使われるCookieというモティーフが女性器のスラングであるとか、性的な隠喩であるとか。まあ周囲に聞いても米人のリアクション動画をみてもCookieは間違いなくスラングとしてはそういう意味だし、グループのメンバーの中学生という年齢を考えるとこれが炎上するのは必至だったはず。論議が起こった後の謝罪の一部がKStyleに掲載されていたので日本語訳で読んだが「多数の英文学の博士、通訳・翻訳専門家、ネイティブスピーカーおよび一般外国人に確認を取ったところ、“通常使われる概念ではない”-中略ー解釈は主観的な経験と客観的な事実が共に作用することなので、無条件での断定というのはありえない。また、脈絡が考慮されなければならない。」というのは少々白々しいのではないか?と感じた。記事上にはその点は記載が無かったがその人々に今回の歌詞やMVを見せた上で聞くのでなければ言葉の意味だけを聞かれた人々が脈略を理解して、そのうえで判断していることにはならないわけで。 ともあれ米人のリアクション動画はダブルミーニングに反応したものが多いが、日本人はどうかと思ってチェックしてみると、たぶんCookieの意味が気にならないからなのか、ビート感がいいのか、おおむね好評で中にはがっちりハマっちゃってる感漂ってくるコメントもあった。曲の中毒性も高そうである。米人のメンションで圧倒的に多いのが、才能に対するもので、日本人のメンションは容姿や衣装が主だけど声などパフォーマンスに関するものも有る。 HYBEとしてはなんとなく異色な気がして、ふわっとした違和感が生じたのでもう少し報道とかよく読んでみたら、彼女たちをプロデュースしてるのがもとSMのミン・ヒジン氏ですと。そして彼女のインスタグラムに映っている私物がどうもロリータ物議をかもし、今回のNewJeansの煽情性議論と相まって燃えているらしい。全然見落としてたけど東方神起やシャイニやf(X)も、室長と呼ばれてた頃ディレクションしていた彼女ですね。 まず今回のMVはこれまでに公開された’Attention'や’Hype Boy'の青春の1ページ的なMVとは明らかに違っている(というか、あとから良ーくみてみるとそれらもそこかしこに痕跡はあるんだけど、もっとsubtleというだけの違い)。’Cookie’には確かに中毒性を、そして濃い退廃性を感じる。 画面はポップさを随所にちりばめてはいるけど、それはメインの暗さを多用したシックでレトロ感を感じさせる画面を際立たせる脇役というかクッキーのイノセントなお菓子としての一面。確かに彼女たちはとても清純に見える。衣装はモノクロ中心の制服を思わせるデザイン。髪の毛はまっすぐの腰まであるストレート、髪色暗め。スタイリングは清純さにフォーカスしているのは確かでこれらは物質としての無垢な少女性。でも、それがはじけて輝くというより、逆にこの時期、この年齢でなければ成立しえないエロスや艶めかしさを押し出しているように見えるのは私だけではないでしょう。ゆえに物議をかもすわけですが、「クッキーをどうぞ、やわらかすぎるかな、食事はない、飲み物もない、デザートだけ、求めるようになる」という歌詞の内容は、文脈を読み込めば読み込むほどセンシュアルに聞こえるし、さすがに英語文化圏で暮らしているとクッキーはあまりにダイレクトなので気まずいけど、クッキーに限らずスイーツ系は確かに英語で性的な隠喩によく使われる。 これが単純に煽情的だから悪い、とは思わないし、長年東方神起を見てきて結局それがファンたちを取り込む要因になったのも知っている。それって中毒に陥らせる一つの要素だし。ただし彼女のディレクションで一番気になるのはストーリーテラーであるゆえにか世界観のなかでアイドルたちが長く生きていけなそうなところ。いや、長いかもしれぬが、年をとってはいけない感じがするところかな? ’Cookie’のシックな画面も、まるでこれが彼女たちの完成された姿でこれ以上成長すること、年を取ることを阻むようでもある。普通に子どもの無邪気とシックは両立しないのが常だが性的なファンタジー(それを鑑賞する大人の視線)を加えると成立してしまう。それを見せる道具が画面中央のひな壇だろう。そこに並んで選ばれ、「食べてもらう」システムをほのめかす以外、これはどういう解釈になるのか?彼女たちは絹のような長く美しい黒髪を揺らし、つやのある甘く細い声で歌い、中学生と思えないしなをつくって見せる踊りは技術に長けている。かわいらしい無邪気さと、技術としての色恋の同居はまるで舞妓のようではないか?そもそも私はSMの「システム」には花街との共通点をずっと挙げてきているんだけど、先日未成年飲酒やセクハラを告発した舞妓さんの記事を読んだときに、舞妓は子供なのでセクハラされても『わからしまへん』と返すしかなく、ひたすら純粋でひたむきでなければならないという元舞妓さんの言葉があったが。 今作品は大変魅力的で人々を中毒にさせる九尾の狐の手腕をもったミン・ヒジン氏の秘蔵っ子5人の面目躍如のMVであることは疑いいれないけれど、同時にとても危険な気がする。頭の中でアラートが鳴る。エロスは生と同時に死も思わせるから。私は同じように才能を称えられながら煽情議論に巻き込まれた東方神起の5人のことを思わずにはいられないし、ジョンヒョンやソルリを思わずにいられない。彼女のディレクションはファンのみならずアイドルたち自身も幻惑されてストーリーの登場人物になってしまうようなので。 BTSのRMがアイドルというシステムに居る限り成長が無い、とメンションしたことも忘れないでおこう。どんなにNewJeansの彼女たちが大人びて、MVのなかで主体的にふるまっていたとしても、’Cookie’のダブルミーニングをきちんと説明され、解釈したうえでパフォーマンスしているのでない限りだまし討ちと変わりないとは思う。これだけは言っておきたい。 参照: Kstyle-『NewJeans、未成年には過激すぎ?「Cookie」の歌詞が議論に…事務所がコメント“脈絡を汲み取ってほしい”』 https://news.kstyle.com/article.ksn?articleNo=2200204 8・27・2022 文春オンライン 「じゃんけんで勝った方がお客さんの前を洗うんやで」未成年舞妓に『お風呂洗い』『旦那さん制度』『深夜の酒席』を強いてきた“花街の論理”《弁護士見解「労働契約が必要」》 元舞妓の告発#2 https://bunshun.jp/articles/-/56166 8・2・2022