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心筋梗塞 心臓リハビリの全体像【まとめ】/リハビリの目指すことと、その方法

こんにちは。改めまして、心筋梗塞サバイバーの青海 陽です。
これまで、心筋梗塞が起きた時のこと~入院~退院までを書いてきました

私が闘病日記を公開しようと思ったのは、私自身が発症し入院した時に、「見通し」が一番欲しかったからです。わからなさと怖さの中で、落ち込んだり、泣いたりしていました。だから、「私の体験を誰かの「見通し」にしてもらえれば」、それが私が書いている一つ目の理由です。

そして、このマガジンでは、これから先は退院後の生活、特に「心臓リハビリ」について書いていきたいと思います。

「心臓リハビリ」というと、何か心臓を鍛えるための筋トレのようなものを想像しますね。実際は心臓リハビリは、もっと広い、生活の多くの場面での継続的な取り組みを言います。生活場面のすべてがリハビリと言っても良いくらいです。

一方、心臓リハビリを実際に始めてみると、その大変さに気づきます。まったくうまくいかないのです。退院後約2年を迎えた今も、まだうまくいっているとは思えません。これが、私が心筋梗塞の闘病日記を公開する二つ目の理由です。難しい「心臓リハビリ」について一緒に考えてみたいのです。どんなことに取り組まなければならないのか。そして、やってみたこと、うまくいかなかったこと、困ったことなどをお伝えしたいと思います。失敗と試行錯誤と諦めとサボりと、もう一度やってみようと自分を奮い立たせる気持ちを、書いていきたいと思います。

今後は、リハビリに関わるたくさんのことを、脈絡なく書いていきます。今回だけは系統だって真面目に書きますが、この記事はこの後に続く「リハビリ日記の項目をあらわす目次」のようなものと思ってください。

同じ立場にあるどなたかの参考に、少しでもなれば幸いです。


1.心臓リハビリの目的(目指すこと)


 リハビリは心臓疾患手術後に次のような目的で行うものです。

(1)心臓の機能回復

①心臓そのものの機能回復
個々に程度の差はありますが、心臓の血管が詰まった状態でいたことにより、心臓の筋肉の何割かは壊死してしまい、心臓のポンプ機能の力は以前より下がっています。また、血管や梗塞による組織の不具合によって、多くの場合、心臓は正しい動きを維持できていません。日常生活の中で心臓の動きを回復して、生活に支障のないようにしていくイメージです。

②入院生活からの回復
1週間から、長い場合は数カ月に及ぶ入院によって、身体機能は確実に下がっています。多くの人は、入院中の規則正しい生活とコントロールされた食事によって、体重が減ります。

しかし多くの場合、脂肪だけでなく筋肉量も減っています。私は入院前の体重は約68㎏でしたが、19日間の入院で体重が約4㎏落ちました。喜んでいたのですが、退院後にスポーツジムの筋肉量計で測ると、落ちた4㎏の内訳は脂肪1.5㎏、筋肉2.5㎏でした。
お尻がしぼんだようになって硬いベンチが痛かったり、足が細くなっていたりして、筋肉が落ちていることに気づくのではないでしょうか。リハビリにより、生活の動作に必要な筋肉を回復していきます。

そしてリハビリを通じて、筋肉だけでなく、体を起こしていることに慣れることや、歩いたり物を運んだりするために関節を動かすことなど、様々な体の動きを、もう一度思い出していきます

(2)日常生活への復帰

リハビリの目指すところは、体の回復だけではなくその先にあります。体の回復によって元の生活、目指す生活に復帰していくことにあります。それぞれが入院前に持っていた、家庭や社会の中で果たしている役割、家事や楽しみ等の生活、人間関係等を取り戻していきます。

リハビリでは、生活に体を慣らしていくとともに、できること・できないこと、避けた方が良いこと、気をつけた方がいいことなどを、自分の体に合わせて覚えていきます。



(3)再梗塞の防止

心筋梗塞の特徴は、再発を「努力して」防ぐということです。多くの本では、「再梗塞・再狭窄までの期間をできるだけ延ばす」という書き方をしています。それほどまでに、心筋梗塞や心不全は再発率が高いのです。その理由は、この病気が、多くの場合生活習慣や体質によって起きているからです。再発症を防ぐのが心臓リハビリの中心にある目的です。


そして、心臓リハビリが生活の広い範囲にわたりますか、心臓リハビリが難しいのは、「生活習慣そのものを変えなければならないから」なのです。


(4)自己管理できるようになる



継続した取り組みや生活改善が必要なことから、退院後は自己管理が必要となります。この点も心臓リハビリの特徴かもしれません。これについては後で詳しく書きます。


2.入院中の心臓リハビリ

(1)心臓リハビリ開始(運動療法)

入院中の心臓リハビリは、意外と早い時期に始まります。リハビリとして始まりがわかりやすいのは、歩行練習等の運動療法です。私の場合4日目にCCUから一般病棟に移りましたが、翌5日目から運動療法が始まりました。運動療法は一般的に概ね次のような時期に分けられます。いずれも医師の指示による計画書にもとづいて行われます。




①急性期(手術~約2週間)

日常の自分の動作を自分でできるようになることを目的にします。
・リハビリの開始の1週間の遅れは回復1カ月の遅れと言われます。
・ベッド上で体を動かすことから始めます(CCUでスタートも)
・座る、立ち上がる、歩く等少しずつ増やします。
・重症度と回復を見て医師の指示により理学療法士が行います。
・歩く距離は約10mから少しずつ伸ばします。

【私の場合】
・リハ開始の5日目までは一度も立ち上がったことはありませんでした。
・試しの運動前後で脈と血圧を測り、PTが運動量と負荷を計算して決めました。
・運動療法が始まったのは、導尿の管と点滴が抜けた日の午後でした。
・他の患者を見ると、点滴をしたまま歩行練習をしていた人もいました。


②回復期(急性期後~退院後約6カ月くらいまで)


病気について学び自己管理ができることを目指します。
・退院後に状態を見て社会復帰の準備を進めます。
・病院内に心臓リハビリの施設がある場合には器具等を用いて運動を行います。

【私の場合】
・19日で退院したため、上記①の急性期リハのみでの退院でした。
・特に院内での回復期リハなく退院したのは、私の心筋の損傷レベルが3割程度で比較的軽いというみなしなのでしょうか。
・退院時に、回復期リハができる機関を特に紹介されませんでした。
・後日通院の際に地域内でリハができる機関を訊いたところ「ない」とのことでした。
・退院時に質問したところ、運動の強度の目安は脈拍106程度は全く問題なし。120くらいまで余裕で大丈夫だろうとのことでした。
・回復期リハにある「病気を知ること」や「栄養指導」にあたるものとしては、入院中に後述の患者講座「心不全勉強会」「心筋梗塞勉強会」がありました。
・リハビリについて何度か医師に質問しているのですが、あまり関心がない様子。医師は病気になって来た人を何とかして退院させるのが仕事で、退院後の生活や、再入院しない方策については関心がないのだろうなと感じます。
この回復期~維持期のリハビリのやり方のわからなさが、まさにこの後続いていくこのマガジンの記事になると思います。


③維持期(回復期~その後ずっと)


・体力の維持、できれば向上、再発防止を目的に実施します。
・地域の運動施設やスポーツクラブ利用、日常生活を通じて行います。
・医師の助言によって自分に適した運動の強さ、量を知り、続けます。
・定期健診を受け運動処方を受けます。
・食事療法、改善した生活を継続します。

【私の場合】
・②回復期からの継続で自分で行っています。
・スポーツジムのプール中心(水泳の許可は退院時に医師にもらいました)
・運動処方としての定期検診はありません。
・食事療法等の助言を受けられる地域内の施設は「ない」と言われました。 

(2)心臓リハビリ(食事指導)

心筋梗塞の要因である動脈硬化は、日々の食事の影響が大きいため、心臓リハビリでは食生活全般を見直します。心臓にやさしい食事と食習慣を身につけます。

油や塩分を減らす食事、カロリーの低い食事、食べ方、規則正しい食事、心臓に良い食材、水分のとり方等を入院中に学びます。


(3)心臓リハビリ(生活改善)

①お酒の飲み方
適量のお酒は血管を広げて血圧を下げ、血流を良くする効果があります。一方、アルコールが体内で代謝される際にできる「アセドアルデヒド」は血管を収縮させる作用があり、心臓発作を誘発する危険性があります。

また、アルコールはエネルギー量が多いため、飲みすぎると肥満や糖尿病等の動脈硬化を進める要因を増やしてしまいます。アルコールの食欲を増進させる作用による食べ過ぎや、つまみの塩分、油分の影響もあります。

このようなことから、お酒の飲み方の改善指導を受けます。

②禁煙
たばこに含まれている様々な有害物質の内、心筋梗塞等の心臓病に影響をおよぼすのは、一酸化炭素とニコチンです。
一酸化炭素は、血中のLDLコレステロールを酸化させ「酸化LDLコレステロール」に変え動脈硬化を促進します。また血中ヘモグロビンと結合し全身に届く酸素を減らすため、運動中の発作を起こしやすくします。
ニコチンはストレスホルモンの分泌を促進し、交感神経の働きを高め、心拍数を増加させ、血管を収縮させて血圧を上げます。これにより狭心症の発作を誘発します。また、ストレスホルモンは血小板を固まりやすくする作用があるため、血栓ができやすくなります。

虚血性心筋梗塞の死亡リスクは、たばこを吸わない人と比べて1.6~3倍になります。たばこのリスクは心臓だけではなく、肺がんなどの呼吸器の病気の危険因子となります。心臓を守り、命を守るためには必ず禁煙が必要です。禁煙については別の記事で詳しく書きます。

③睡眠
睡眠が不足すると狭心症、心筋梗塞のリスクが上がると言われています。睡眠不足になると、自律神経のバランスが乱れて血圧が変動しやすくなるため、心臓に負担がかかるからと考えられています。眠ると副交感神経が優位になり、血圧が下がり、呼吸数、心拍数が減少して体は休む状態になります。
規則正しい生活を送るとともに、入眠前3時間は食べない等の食生活の改善や、寝る場所の環境等を整えます。

④ストレス
ストレスが体に悪いのは想像に難くないのですが、特に心臓に影響を及ぼします。精神的なストレスにより交感神経が刺激されて、アドレナリン、ノルアドレナリン等のホルモンが分泌され心拍を早くし、血圧が上がります。またインスリンが効きにくくなり、血糖値が上昇します。ストレスホルモンは血小板を固まりやすくする作用があるため、血栓ができやすくなるのは前述のとおりです。

心疾患ではストレスを減らす、ストレスを解消する等が求められ、その方法が睡眠や運動でもあります。

⑤温度差など
急な温度変化が心臓の負担になることがあります。生活の中で急な温度変化がある場面を確認して改善するようにします。冬の浴室と脱衣所、トイレなどがこれにあたります。通常暖房しない場所であり、服を脱ぐことによる温度変化が大きくなります。また入浴や排せつで血圧が上がる条件が重なります。あらかじめ脱衣場、浴室、トイレを温める等の工夫をします。朝起きた時や、夜中にトイレに行くときの温度変化も同様です。服装の工夫等によって温度変化を避ける工夫をします。

⑥水の飲み方
心筋梗塞I後は、体内の水分バランスを保ち血液をスムーズに流すために、一日を通して同じ間隔で水を飲むようにして、水分補給ができない時間を作らないようにします。食事以外に一日に約1.5ℓの水分をとるようにします。2時間おきくらいに、一回約200mlの水分を補給します。運動等であらかじめ汗をかくことが予想できるときには運動前にも水分を補給します。また、睡眠前、起きてすぐにも水分を補給するようにします。水分はできれば糖分のない水かお茶で、体を冷やして血圧を上げないように常温が良いと言われています。

(4)心臓リハビリ(自己管理の習慣)

退院後に自分で学習して、自己管理が大切なことがわかりました。一方、入院していた病院では、任意参加の患者講座で記録表の説明が多少あっただけで、はっきりとした重要性の説明はありませんでした。

入院生活を振り返ってみると、一般病棟での入院生活の後半には、自分でいろいろなことをやらされていたに気づきます。あれらが、実は自己管理の練習、習慣化だったのではないかと思います。その時は看護師が足りないため患者にやらせているのかと思っていましたが。

【入院中にやっていた自己管理】
・尿量と回数の測定:カップに排尿して尿量測定器に入れる
・毎朝の体重測定:朝6時起床後、ナースステーション前の体重計で量りメモしておく。朝のナースの巡回で体重を訊かれる。
・血圧、脈拍測定:朝1回は必ず。あとは自分で歩行練習をする前後に測定。血圧、体重とも毎朝同じ時間に同じ条件で(トイレ前か後か決める等)測るように言われる。
・服薬管理
・自分でリハビリ歩行した時間、距離の記録




(5)患者教育

「患者教育」は病院側で使う言葉なので、あまり患者の目には触れないかもしれません。
私が入院していた病院では「心不全学習会」「心筋梗塞学習会」という名前で実施されていました。2週間に1回程度の講座のため、入院中に受けられれないこともあると思われます。心不全学習会はありましたが、心筋梗塞学習会は退院日の午後だったため、一度退院してからお願いして受けさせてもらいました。
特に患者に積極的に参加を勧めている様子もなく、開催を知らないナースがいる程でした。参加する患者は3~5人で、活気のない講座でした。
一方、内容は、初めて知ることばかりなのでとてもよかったです。その上、講師が医師、薬剤師、心臓リハ指導士のPT、管理栄養士、看護師のため、内容にしっかりと裏付けがあって専門的で面白いものでした。以下に項目だけ書き出します。これらが退院後の心臓リハビリの中心となります。詳細は別の記事で改めて書きます。

3.運動負荷検査と医師の許可

普通は入院中、心臓リハビリ開始前や心臓リハビリを開始してから、運動負荷検査を受けます。検査の正しい名前は「心肺運動負荷試験」というそうです。吐いた空気を測定するための特別なマスクを着けて、自転車のマシン(自転車エルゴメーター)または歩行器(ドレッドミル)で行う検査です。
この検査によって、運動している時の心臓の肺の機能を同時に測定します。測定する内容は、おおむね以下のものです。

①最高酸素摂取量(peakVO2)

運動負荷試験ピーク時の最高酸素摂取量を調べて、運動耐性の指標を得ます。

②嫌気性代謝閾値(AT)
十分に酸素のある状態から、きつくなって酸素が不足し無酸素運動になる切り替えポイントを示します。この数値が運動処方箋の基準として使われます。元の身体能力が高いか低いかによって差が出ます。

③その他
二酸化炭素排出量、換気量、換気効率、血圧、心電図、心拍数等を測定します。

【検査の様子】
・検査前に4分間静止した状態で測定を行います。
・4分間、ウォーミングアップを行います。
・4分後、徐々に負荷が強くなります。自転車の場合、ペダルがどんどん重くなります。この時に、心臓も体もきつくなり心臓が破裂しないかなり不安になります。限界を知る試験なので全力でやるそうです。
・その後、一定の重さで10分間運動を続けます。
・その後徐々に負荷を下げていって、終了約5分後に測定をします。

④運動処方箋
画像添付
試験の結果により、運動処方箋が作られます。読み方の詳細は別に書きますが、この結果の中でAT値が有酸素運動から無酸素運動に切り替わるポイントの脈拍(苦しくなる瞬間)で、この脈拍が心臓に負荷がかからない安全な値とされます。私の場合は106(拍/分)でした。


【入院中に受けた講座の内容】

◍医師・薬剤師
心不全の医学的な説明
(1) 心不全とは ※ポンプの機能不全だが、血流を受ける側に支障
(2) 予後
    ① はじめ心臓は筋肉を厚くして補うが(壁固い=拡張不全)
     後伸びきってしまう(収縮不全)=戻らない
     ⇒その進行を遅らせる
    ② 入院ごとに薬が増える傾向=薬の抵抗性が増す 寿命が縮む
      心不全を繰り返すと心負担で機能が下がる
      ⇒入院スパンをいかに開けるか      
(3) 治療
    ① 薬物療法:
      強心薬
      β遮断薬=心臓の興奮を下げて心臓を長持ちさせる。 
           交感神経を下げる。長期で服薬量は増やす薬剤
      利尿剤(むくみ改善)
      血管拡張薬
      心臓保護薬(ARB、ACE阻害薬)
    ② 食事療法
    ③ 運動療法
    ④ 非薬物:ペースメーカー(収縮がいびつなど)
    心不全(壊死)+心筋梗塞(⇒詰まらせない、血管寿命をのばす)
(4) 定期受診
   痛みなくともチェックする(定量評価):例 心エコー
   数値化で比較しやすい
   負担、長期移動、旅行は医師に相談
   ※次の受診を待たない=無処置期間が長くなるので
    違和感があれば近くのクリニックで心臓、肺のレントゲンでも良い(5) 自己チェック

◎PTの話
「心臓リハビリとは」
・心臓リハはここ10年で活発になった(以前は絶対安静だった)
・体力:①心臓 + ②筋肉の力 が連動
    ②が落ちると、①に負担 ⇒ 落とさずに維持する
・リハ効果:心臓が柔らかく拡張するように、血管が柔らかくなる
・目安:ボルグ指数 7~19の内、13「ややきつい」まで
・早朝、空腹時はしない。食後は1~2時間あけてから
・記録表の例
 月日時刻/血圧(朝・夜)/体重(朝・夜)/薬/リハ(距離・ボルグ)
 /自覚症状/動ける/むくみ、冷たさ、だるさない?/
 血圧と体重:起床排尿後朝食前 統一して決める 入浴後、食事後はダメ

◍管理栄養士の話
「塩分コントロールの意味と工夫」
  ・塩分→水分過多、水分排泄制限→心負担
   水分管理のために塩分管理する
  ・塩分一日量6g未満
  ※詳細は別の記事に書きます。
  

4.退院後の心臓リハビリ

(1)退院後のリハビリ計画


①リハビリ計画
入院中にリハビリ室で指導を受けられる場合には、自分にあった心臓リハビリの計画を作成してもらえるのかもしれません。私が入院していた病院では、退院後の計画は特に作成されませんでした。したがって自分で計画を作らなければならないのですが、何をどう計画すればよいのかがわからず、少しずつ自分で考えて手をつけたような状況でした。これが、退院後のリハビリがうまく進まないスタートだったのかもしれません。

②生活機能評価
本で調べると、看護師や理学療法士との面談、カウンセリングによって、生活機能評価というチェックが行われるそうです。生活機能チェックでは、体の状態(筋力、バランス、歩行、運動等)と精神面の機能(不安、抑うつ等)、日常生活動作(歩行、移動、食事、入浴、更衣、排せつ等)、応用日常生活動作(交通機関利用、電話対応、買い物、家事、服薬管理等)をチェックします。これにより、自分の活動レベルがわかり、これにもとづき仕事や余暇の計画を立てる等、生活の見直しを行います。

(2)どこで誰とやるか

計画もチェックもないため、一人でやるしかなかったというのが現状です。本当は、定期的に助言をもらえる人、または少なくとも取り組みを報告できる人がいると良かった思います。入院していた病院の他に、地域のクリニックに聞いてみましたが、特にそのような専門の人を紹介してはもらえませんでした。

後で調べたところ、「日本心臓リハビリテーション学会」という団体があり、全国の心臓リハビリ実施機関を探せるようになっているようです。自力で見つけた場合には、主治医に相談して紹介状を書いてもらいます。というのも、心臓については医師の判断が必要ななのはもちろんですが、心臓リハビリは退院後150日までは健康保険の対象となる医療サービスだからです。
また、これとは別に、特に運動療法としての運動を続ける方法として、NPO法人ジャパンハートクラブが運営するメディックスというスポーツクラブがあるそうです。メディックスは、ジャパンハートクラブが日本心臓リハビリテーション学会の支援を受けて運営しています。心臓リハビリの専門施設やフィットネスクラブを借りて、心臓リハビリ指導士が指導をしています。クラブは健康保険適用外ですが、一回あたり1,000円から2,000円で利用できるようです。私も退院後に自宅から通えるメディックスを探したところ、2カ所ありましたが、いずれも平日日中のプログラムだったため、仕事との兼ね合いで利用しませんでした。

【メディックスクラブ】
ホームページ:https://www.npo-jhc.org/medex_club/index.htm
メール:info@npo-jhc.org

(3)退院後の心臓リハビリの項目

退院後のリハビリでやることは概ね以下のとおりです。①~③は前述の項目「2.入院中のリハビリ」をご参照ください。
 ①運動療法
 ②食事療法
 ③生活改善
 ④自己管理…次の(4)に書きました
 ⑤心理ケア…次の(5)に書きました


(4)自己管理

退院後の生活の大原則は「自己管理」です。病院は心臓の血管を開通させてはくれましたが、それ以上の責任は負いません。退院して病院の出口から出すことが病院の仕事であり、その後どうすごすかは患者の自由です。病院では通常の症例として再梗塞を十分に想定しています。再梗塞までの期間を開けられることが望ましい。再梗塞させて病院に運ばれれば診ることは拒まない、悪化させて命に関われば、それは仕方ないだろうというのが病院のスタンスです。

心臓の病気を治したのではなく、詰まった血管を開通させただけであり、心臓病が起きやすい体質を改善したわけでもなく、まして詰まらせた生活習慣を改善してくれたわけでもありません。

この病気に関しては、絶対的に自己管理が必要です。自己管理をしなければ相当高い確率で早期に同じ状態が起きます。自己管理する項目は概ね以下のとおりです。これを習慣化できるかが鍵です。

①測定すること
体重、血圧、睡眠時間等
②記録した方が良いこと
運動量、体調、通院時の医師の話
③自己管理すること
毎日の服薬、定期通院日
④その他(※実はこれが結構大切)
気づいたこと、工夫したこと、うまくいったこと

発病前からの体質、体力、体の特徴、生活はそれぞれ違います。また発病後の体の状態もそれぞれ違っています。心臓リハビリをする時に、メモ程度でよいので簡単な記録をとることで、自分の特徴が見えてきます。メモはSNSへの投稿やスマホのメモアプリでもまったく構いません。
自分を知り、自分の体について一番よく知っている「私の専門家」を目指すのが、自己管理のイメージです。

(5)心理ケア

心筋梗塞になった人は、病気により様々なストレスを受けます。

①心臓発作の記憶
痛みの記憶、恐怖の記憶は消えることなく、急に思い出して怖くなることがあります。死への恐怖感を取り除くことができない場合も多くあります。また胸の痛みや異変を感じることがあり、違和感は不安と恐怖を呼び起こします。

②生活制限のストレス
生活の中での制限が増え、以前できていたことができなくなることが多く、それがストレスの原因となります。

③将来についての具体的な不安
心臓病後は、常につきまとう再発の不安や、休職や離職した場合には仕事への復帰、併せて仕事とともに経済的な不安等、将来に関するの具体的な不安を持つようになります。


④抑うつ状態
あまりにも強いストレスにさらされたことにより、抑うつ状態になる人がいます。夜眠れなくなる、落ち込む、身動きができないなどの状態になることがあります。不眠がさらにストレスとなります。

このように、心筋梗塞後は心理ケアが必要な場合があります。ストレスが心臓にマイナスの影響を及ぼすことから、ストレスを軽減していく必要があります。さらには、不安が増長し、約1%はリハビリを拒否したり、自殺してしまうことがあります。

このようなことから、兆候が見られた時には、早期にカウンセリングを受けることをお勧めします。

(6)緊急時の対処法

それぞれの体調に応じた医師の指示があると思いますので、それを守るのが鉄則です。その上で、すべての人に共通したやらなければならないこと、やってはいけないことがあります。

①心臓に違和感があったら、必ず病院に行くこと
胸がモヤモヤする、心臓が痛い気がする等の症状が現れることが時々あります。こんな時は、かならず病院に行って下さい。病院では、心電図や血液検査をしてくれます。場合によっては、24時間の心電図モニターをつけて生活する検査などが行われます。
違和感があっていっても、検査ではまったく異常が見つからず空振りになることがよくあります。それでもまったく構わないと思います。検査を受ければ気持ちはスッキリします。検査を受けなければ、翌朝まで不安なまま過ごすことになるでしょう。

主治医が大病院の場合には、異常を感じて通院しても、待ち時間がとても長くなります。その億劫さから通院を避けてしまうことがあります。そのため、大病院とは別に近所にかかりつけのクリニックを作っておくのが良いと思います。大病院のドクターに事情を話しせば、簡単に相談に行ける家の近くのクリニックに必ず紹介状を書いてくれます。

②夜不調になった時、朝まで待ってはいけない
心臓の不調は、明らかな違和感としてわかるものです。もし心臓の不調だった場合には、必ず救急車を呼んで下さい。「朝まで様子を見てみよう」と考えてはいけません。翌朝まではもたずに死にます。迷わずに救急車を呼びましょう。迷うときには、少なくとも救急車を呼ぶか迷った時の番号「#7119」に電話して相談して下さい。

救急車で運ばれて、異常なしで空振りになることもあります。私は心臓ではなかったということが2回ありました。それでも命には代えられません。救急車を呼びましょう。


5.あとがき

「過去と他人は変えられない。未来と自分は変えられる」この言葉はカナダの精神科医エリック・バーンのものとされています。白血病になったトップ・スイマー池江璃花子は似た言葉で、「過去の自分に戻ることはできないけれど、自分の運命は今この瞬間どう生きるかによって変えられるものだと思う」と語っています。「辛いことがあっても、乗り越えた先の未来は変わっていく」と言葉は続きます。

前者はエゴグラムによる構造化理論を含む「交流分析」を提唱した精神科医の言葉です。構造化理論は「好ましくない自我の状態を好ましい状態に変える」ものであり、その流れの中にこの言葉はあったと考えられます。
後者は闘病を超えて復帰したアスリートによって語られた言葉。奇しくも、いずれも心理、身体の回復途上の心理を示した言葉であり、まさにこれらがリハビリテーションを示す言葉のように感じます。

何をするか、しないかによって、確実に未来が、予後が変わります。
そして、それを行うのは、他でもない私です。私が私のために行動できるかどうかを問われている、それが心臓リハビリです。

心臓リハビリは生活習慣を変えることなので、なかなかうまくいきません。ただ、心臓リハビリは、必ず辛い思いをしなければ効果が上がらない、というものではありません。楽しみながら、悠々と越えてもいい。失敗したり挫折したり止まったりしながらでも構わない。何かを目指した先に「生」があるのではなくて、試行錯誤し格闘し笑っているプロセスそのものが「生」だから、それを楽しめたらいいなと思います。

私の書く言葉が、誰かの励みや力や笑いになりますように。
それが私の力にもなります。
お互いそれぞれの場所で精いっぱい生きましょう。
そして、いつか会いましょう。

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本稿&画像 Ⓒ2021青海 陽
参考文献:
心臓リハビリ 長山雅俊監修 講談社
詳しくわかる狭心症心筋梗塞の治療と安心生活 上妻謙監修 主婦と生活社
ウルトラ図解 狭心症・心筋梗塞 矢嶋純二監修 法研
     

読んでいただき、ありがとうございます!☺ かつての私のように途方に暮れている難病や心筋梗塞の人の道しるべになればと、書き始めました。 始めたら、闘病記のほかにも書きたいことがたくさん生まれてきました。 「マガジン」から入ると、テーマ別に読めます(ぜんぶ無料です)🍀