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「真っ暗な中でキャッチボール」を想像できるか、という話。

先日、とある目的から小学校を訪問した。


入口に立つ警備員に挨拶をして正門を抜けると一年生が校庭でボール投げをしていた。

真上にボールを投げて、ボールが上がっている間に「いちにさんし」と手を叩く。そしてボールをキャッチ……できない(笑) 
頭に受けたり、肩に当たって弾き飛ばしたりしてキャッキャしている。そんな彼らの笑顔は天使のよう。



校舎に入り、各学年のフロアを覗く。

オープンな造りで、教室はクラスごとに区切られてはいるがドアは存在しない。
どのクラスの声も聞こえるし、フロア全体を見渡すことができる。開放的で明るい。



各学年の授業風景を見る中で、私が一番興味を持ったのは六年生の道徳の授業だった。

この日のテーマは「コミュニケーション」。


六年生にもなると、クラスの大半はスマホを所有しているという。そんな彼らと共に考える。

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担任がプリントを配り、黒板に映像を映す。

映し出された中には見たことのあるグリーンの背景。



背景の前にマイクをつけた女性が座り、もぞもぞと動いている。どうやら、録画された教材ではなく、外部講師によるオンライン授業らしい。

参加しているのは、五年生と六年生の全六クラスだった。


講師はとある企業の女性で、和気あいあいと授業を進めていく。


生徒は四人ひとかたまりで向かい合い、ワークシートに記入しながら、必要なときに仲間内で話し合う。

「コミュニケーション」
「ちがい」について考える。



まず最初に出された問題はこちら↓



メッセージアプリでこの画面を見たら、どう感じるか。

これを送ってきた相手の気持ちを考える。

前後の会話は示されず、この一言のみで印象を答える。


答えは三択で、各々が一つの答えに絞る。

①すごく面白いと思っている。
②ちょっとだけ面白いと思っている。
③バカにしている。

考える時間を設けた後、講師が「答えに『正解』はない」と前置きをし、生徒に手をあげさせる。

生徒たちの答えは、②と③に分かれた。



次に、絵文字をプラスする。



これも同じ三択。
これを送ってきた相手の気持ちを考える。


①すごく面白いと思っている。
②ちょっとだけ面白いと思っている。
③バカにしている。


生徒たちの答えはほぼ半々で①と③に分かれた。


ここで講師が、①を選んだ理由を一人の生徒に訊く。
なぜ、相手が「すごく面白い」と感じていると思ったのか。

生徒は「口のかたち」と答えた。


次に、③を選んだ生徒にも同じ質問をする。
なぜ、相手が「バカにしている」と思ったのか。

生徒は「手と顔がうざいから」と言った。

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自分だったら二つの問の答えにどれを選ぶだろうと考えてみる。

一の問……②かなあ。
二の問……①かなあ。

前後に会話がないから、答えを絞ったあともすっきりしない。




次はグループチャットの画面を見て考える。



蜂🐝のアイコンが自分である。
空欄を埋める。



すると、カエル🐸がこんなことを言う。




これはどういう状況だろう。


自分🐝の放った一言がどういう内容か、相手との関係性等々、様々なことを想像するけれど、この画面だけを見た第一印象では、私にはカエル🐸が怒っているように感じる。

だけど、案外軽いノリの「ばーか」なのかもしれない。

声や表情がないからわからない。

さあ、あなただったらなんて返信する?という問。


なかなか難しい。
答えは幾通りも考えられるけれど、自分が蜂🐝だったら、まずは3分くらい黙り込むと思う。


この問に対し、一人の生徒は「電話をして声を聞く。声を聞けば怒っているかわかるから」と言った。

行動派。勇気あるなあ、と思う。



私だったらどう返すだろう。

そもそもテストのために一時間勉強した人をばかにするということはない。だから、相手からの「バカにすんじゃねーよ。ばーか」に対して、私の中に生まれる感情としては

「バカになんかしてないよ……」という、誤解が生じた悲しみと同時に
「……はぁ?」という憤りが混じる。


3分ほど色んなことに思いをめぐらせ、最終的にはいつもの考えに行きついた。

「みんな、それぞれ事情があるよね……」
→ 誰のこともわからないよ。


わからないからといって全部諦めるわけではないけど、「わかったつもり」にだけはならないよう、気をつけている。


だから結論としてはこんな感じだろうか。



私だったら、シンプルにこれだけ。


言いたいことはフラットに。悲しみも、相手に対しある種の同情もある。だけど一方的に「バカにしてんじゃねーよ」と決めつけられたことと「ばーか」という暴言に憤っていることもあり、一番言いたいことだけを感情を込めずに伝える。かなぁ。

……と、真面目に考えながら授業を聞いた。


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このテーマに対する講師のまとめとしては、

「ネットでのコミュニケーションは真っ暗な中でキャッチボールをしているようなもの。相手の表情や雰囲気がわからないから『誤解』が生まれやすい」

ということ。そのとおりだろうと思う。


今の小学生はこういう授業をしていた。
すごく繊細な部分について考える機会を持っている。

手探りでネットデビューした大人たちよりもよっぽどうまくネットでのコミュニケーションを楽しめそう。

いいな、と思った。



「暗闇でキャッチボール」

まずこの状況を想像できるかというところから大人の場合は苦戦する人がいるのかもなあ、なんて思った。

すべての解決策は想像力のもとに。





#思考
#エッセイ


















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