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掌編小説|希望のなみだ|シロクマ文芸部

 雪が降ると、からだの表面が光った。
 田舎町に暮らしていた少女の頃、両親は心配して、雪の日はわたしを外に出さなかった。だから、積雪の多い地域に生まれながら、わたしは雪かきも、子どもらしい雪遊びさえしたことがない。

 このからだのことで医者にかかったことはない。それは両親の心の在り方が影響していた。
 彼らには信じているものがあり、その導きに従ってさえいれば、医療の介入は必要のないことだった。だけど、わたしはこの奇妙なからだの特徴について誰かと話したかったし、せめて安心する言葉とともに抱きしめて欲しかった。

 わたしが初潮を迎えた年の、雪が降らなかった日。この日からたびたび、蝋燭の灯された薄暗い部屋に呼ばれることがあった。この部屋の奥にはベッドがあり、わたしはそこに寝かされるのだ。
 ベッドといっても、身動きできそうもない幅の木の板の上に、薄い敷物がある程度の簡素なものだ。そこに仰向けになり、蝋燭の灯りで人々の影が揺れる天井をただ見つめつづけた。

 このように、わたしはいつからか祀られるようになった。それが忌むべきものとしてなのか、幸をもたらすものとしてかは知らされなかった。

 薄い襦袢のようなものを一枚、裸のからだに身につけ、大人たちが発する不協和音を聞く。
 恐怖と寒さでわたしのからだは、固く縛り付けられたベッドの上で震え始めた。それを見ると大人たちはよりいっそう、熱心に声をあげた。
 やがてからだの震えが最高潮に達し、飛び跳ねるように上下する。がたがたとベッドが揺れて、口に加えさせられた布越しに声が漏れる頃には、わたしを見て恐ろしがる子どもたちが泣き叫んだ。

 それを合図とするように、わらわらとわたしを取り囲む大人たちの手に、蝋燭があった。見つめている天井にくっきりと影がうつる。人々はわたしを囲っている。ああ、なんてあたたかい。

「わざわいのもと」と誰かが言った。

 続けて人々が思い思いのことばをかけ始めた。しかし聞き取ることはできない。
人々は祈りなのか呪いなのかわからない言葉をなげかけ、それぞれがわたしに蝋を垂らす。
 薄い布地を通して、激痛に似た熱を感じながら、わたしは涙を流した。その涙は、ひときわ明るい光を放つ。

「わざわいのもと」と誰かは言う。

 わたしの涙は、流れたそばから冷えて固まる。自分では見たことがないその涙は、一筋の光になって人々の目に触れる。

「しずめたまえ」

 人々はわたしから離れていった。元の位置に置かれた蝋燭の火が、天井にうつる影を穏やかに揺らした。
 大人たちはわたしに頭を垂れて感謝を述べる。その背に隠れるように、子どもたちは身を縮めていた。

 わたしは、この人たちのために何ができるだろう。わたしの流す、この一筋の光が、かれらの心を癒して希望となるのであれば、わたしはいくらでもこの身を捧げようと思う。
 世に出ればバケモノ。そんなわたしが、ここに居さえすれば、災いを鎮めるために祈りを捧げ続ける人々の希望の光になれる。

 そう思うことで、わたし自身も救われるだろう。もとより、ここから逃げることなど、願っても叶わないのだから。




#掌編小説

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