魅惑のコスメ展 【最後のマスカラ】
かつての人々の暮らしを展示する博物館で、特別展が開かれている。
『女を魅了したコスメ展』には、見たことのない道具がずらり並ぶ。
今や『顔』は自動販売機で買う時代。
元の顔を晒すことのなくなった私達の顔は、個性というものがなくなり、不要なものが退化して、のっぺりとしている。
この展示会の一番の目玉は、かつて必需品だったと言われる『マスカラ』の展示だ。
「最後のマスカラ」と呼ばれるそれを観察していると、スタッフの女に声をかけられた。
「興味があるのね」
そう言うと女は、もったいぶった動作で顔を外した。
「あっ」
驚いた。女の顔に、何十年も前に退化してなくなったと言われる睫毛が生えていたのだ。
「ふふ」得意げに笑った女は、白い手袋をはめた手で、「最後のマスカラ」を薄く睫毛に乗せた。
「ほらね」
女の顔がぬっと私の眼前にくる。思わず息を止めた。
無言でうなずき、展示室を後にする。
・・・
「何が、ほらねだ」
理解不能なかつての道具に呆れた私は、最近お気に入りの「デカ目」フェイスをガラスに映して「ふふ」と笑った。
[完]
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今週のお題【最後の】×【マスカラ】で書きました。
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